254話
飄々としたまま、サキナはオペラを口に運ぶことはやめない。
「ベアトリス。お邪魔してるよ。先にケーキもいただいてる」
フォークを振って牽制。すでに二切れは胃の中。あとでお土産も持って帰ろう。
その様を見、呆れていいやら怒っていいやら、どうリアクションすればいいのかベアトリスにも判断しかねる。
「……お前が来る時に限って……狙ってやってるのか?」
弟がケーキを作った時には高確率でコイツがいる。不可解だが、誰かに漏らした記憶もない。まさか弟がわざわざ呼んでいることもないだろうし。すごいのかすごくないのかよくわからん能力。
「まぁ、我々は一心同体だからね。ベアトリスの喜びが伝わってくるのさ」
この感覚は上手くサキナにも表現することができない。「なんとなくビビビっとくる」日がケーキなだけ。逆に言えばケーキが食べたければ第六感に従うのみ。チーズからショコラまで好き嫌いはない。
なんだか背筋が凍りそうな発言は置いておいて、この状況を黙って見過ごすことはベアトリスにはできない。
「そんなわけあるか。で、なんの用だ? ないならそれを食べたら帰れ。暇じゃない」
このあと、午後から予約が入っている。面倒だとは思いつつも、入ったものはしょうがない。それにご贔屓にしていただいたらしいから、みすみす逃す手はない。
「まぁまぁそう言わず。今日はさ。私が仕事請け負うよ。いいっしょ?」
さらに用意されたオペラに手をつけながら、サキナはそんな思いつきのような提案をする。だから休んでていいよ、と。自身の店と〈ソノラ〉。違いもわかっているし、物の位置もなんとなくは。わからなかったら聞くから。
またコイツはいきなりワケのわからないことを。唇を噛んだベアトリスは蔑むように睨む。
「はぁ? どういう風の吹き回しだ? ダメに決まっているだろ。今日はこのあとお客が——」
そう言いかけたところで、ひとつ、頭に浮かんだことがある。今日、この後に来るお客。それは。元はと言えば。




