253話
なぜこんなことになっているんだろう。正直、興味が欠片もないシャルルは適当に話を合わせる。
「……まぁ、頭脳を使う方々も体が資本ですから。たまたま筋肉がつきやすかったり、とか」
健康であることに越したことはない。その過程でたまたまそっちにも才能があったりして、結果ハマったり。そういう人だっているだろう。シュワルツェネッガーもボディービルからの俳優だし。
それも最初にサキナは考えた結果のひとつ。だが、この世の中は理不尽に溢れている。出る杭は打たれる。となると、こういう考えもできる。
「学者ってさ、論文とか書くじゃない? そういう時って反論もあるわけじゃない? たぶん。で、そんなことを言ってきたヤツら、一撃でブチのめせる、って考えたら心に余裕を持てるからじゃないかな。だから鍛える」
一番しっくりきた答え。文句を言おうものなら殴られるのでは、という恐怖を相手に与える。ゴリラのドラミングが実は、威嚇ではなく「戦うのはやめましょう」という和平の証であることが証明されたように。戦いを望まないからこその選択。筋肉。
やはり全く興味が湧かないので「はぁ」と気のない返事をしつつシャルルは、
「随分と極端な気もしますけど……」
と一応相槌は打っておく。というか。久々に来てなにを話しているのだろう、この人は。まわりになにを考えているのかわからない人は多いが、その中でも特にこの人は。
たとえ自分の話の最中でも、飽きたら他の話題を振り出すサキナ。気まぐれで彼女は話す。
「つまりは、体を鍛えるってのは心を鍛えるってことにも使えるよね。だから——」
「またお前はくだらんことを。用がないならさっさと帰れ」
いつの間にか店内にいたベアトリスが苦言を呈す。基本的に姉弟以外は部外者と考えているため、態度は厳しい。
この店の店主、ベアトリス・ブーケ。リオネル・ブーケの実の娘で、シャルル・ブーケの姉。背は低いが性格は強気。飛び級で学校は卒業している。




