252話
「シャルルくんはさ、なんでスポーツ選手は体を鍛えると思うかね?」
パリ八区〈ソノラ〉。色とりどりのアレンジメントに囲まれた店内中央。お客との対話用の木製テーブルとイス。そこに腰掛けたサキナは、フォークに指したケーキを口に運びながら、疑問に思っていたことを問う。
ビターなショコラとコーヒーの風味、いわゆるオペラと呼ばれるもの。ホールで作り、切り分けるアントルメ。アーモンドパウダーを使ったスポンジ生地に、コーヒー風味のシロップを浸みこませて層を作る。バタークリームとガナッシュが挟まれ、表面にはショコラのグラサージュ。
このケーキを作ったシャルル・ブーケは、傍に立ったまま、自分なりの答えをとりあえず言ってみる。
「……いい成績を残すためには、強い肉体が必要だからじゃないですか?」
それはそうだろう。スポーツ選手は総じて、現役でやっていられる期間は短い。その間に自身の評価を上げ、お金を稼いだり、高みへ登り詰めるのだから。プロになることがゴールではない、そこからいかにやれるか。そこに尽きるわけで。
丁寧に、美しくオペラを平らげながらサキナは味に満足。
「たしかに」
「なんなんですか一体……」
突然来て。ケーキを要求し、よくわからない会話に巻き込まれる。こういう人物に対しての対処の仕方をまだ、シャルルは心得ていない。
しっかりと咀嚼し、味わって飲み込むサキナ。早く次の言葉を喋りたいが、口内が空になってから落ち着いて。
「でもさ、考えてみてほしいんだよ。それだとカリフォルニア大学で数学の博士号を取得し、化学工学賞まで取得したロナルド・フェデキの肉体に説明がつかないよね。ボディビルダーもやっていたらしいし。なぜなのかな」
流体力学についての権威であり、彼の研究結果は様々なハリウッド映画などでも使用されるほど。そんな頭脳を持ちながらも、パワーリフティング界でも有名な筋肉を持つわけで。そして長年考え続けてきたことに終止符を最近打った。




