251話
もちろん、ただで行けるとはサキナも思っていない。事前に準備しておくことはどんなことにおいても重要。
「そう言うと思って——」
その言葉を遮るように、ひとりの少女がその場に乱入。とぼけた顔で明るく。
「サキナに呼ばれたんだけどさ。あたしはなにしてりゃいいの?」
モンフェルナ学園の制服を身に纏った少女の名前はシルヴィ・ルクレール。なんとなくここには結構入り浸っている。
「……」
大体の話の流れは読めた。読めたからこそリオネルは絶句する。
「そこのおじさんから手ほどきを受けて、フラワーアレンジを勉強してて。きっとシャルルくんの役に立つと思うから」
目の前に餌を吊るせば、この少女なら食いつく、とサキナは判断した。お給料が出るかは応相談で。まず、花は食べてはいけないというところから教えてもらって。
なんのことかよくわからなかったし、今でもわかっていないけど。とりあえずシルヴィは承ったということにしておく。
「そっか。じゃ、やる。で? まずなにやるの?」
すごくやる気を出してもらったところ申し訳ないが、一応何度も受講者には見返してもらう永久保存版の映像にするわけで。不安しかリオネルには湧き上がってこない。
「……そこまでして働きたくないかね」
時給? 時給が低いのか? いや、結構いい感じに設定してると思うんだけど。やりがいもあるし。今の子はやりがいじゃダメなんだろうな、うん。
「逆です、逆。今後も続けていくために。確認に行くんです。それだけ」
私服のままで働いているため、もうすぐに向かうことができるサキナ。ケーキもだが、一応目的はないこともない。断りは入れておく。
つまり。今から出かける代わりに自分は呼ばれたのか。そこまではシルヴィにも理解はできた。が。
「確認? なんの?」
なぜ? という部分は聞いておいてもいいだろう。そのほうが? スッキリするじゃん?
濃紺のコートを羽織り、防寒完了。今日は暖かいらしいがそれでも外は寒い。サキナは体を震わせて熱を生み出す。
「私がどれだけベアトリスに近づけているのか、ということ」
私は。サキナ・ラクラル。働く理由は——
ベアトリス・ブーケに誘われたから。




