250話
泳がせていた目を白黒させながら、リオネルは自分の立場というものを教育していく。
「あたくし一応、各国に要人が泊まるホテルとか、そういうのに装花とかしちゃうすごい人なんだけど?」
大きなものから手のひらサイズまで。そこに感動をお届けする、がモットー。季節に合わせてなんでもできちゃう。
パリ市内にある超高層ビル。景観を壊す、という市民からの反対もあり、その後は高い建物禁止という法律まで作らせた、パリを象徴する建築物のひとつ。入ってすぐの入り口に飾られている巨大なクリスマスリース。それは彼の仕事である。
二発目の弾丸をセットするサキナ。簡単に首を縦に振らないので、何発目で打ち抜けるか試したくもなる。
「それとこれとは別です。毎日同じところにいるよりも、ほら、格闘家だって出稽古するじゃないですか。他のジムに。そんな感じです」
総合格闘技とか。よく知らないけど。道場破りとか、なんかそういう感じで。いや、破るつもりはないけど。
使う花の選別をストップしたリオネルは、彼女がここまで言うのには理由がある、と見抜いた。
「どういうことよ。でもサキナちゃんがそういうってことは——」
「たぶんですけど。オヤツにケーキが出ます」
もう面倒なのでサキナは本音を打ち明ける。撮影に付き合うよりも甘いお菓子のほうが大事ってのは女の子に共通すること。特製のスイーツはそこらのお店よりレベルが高い。それが〈ソノラ〉。
どういうトリックなのかはリオネルにはわからないが、彼女の勘はよく当たる。ストライキをされても困るので、こういう時はそうさせるしかない。雇う側と雇われる側の力は平等。
「だと思った。きっとそうなんだろう。行ってもいいけど、代わりに誰かあっちからよこしてね」
ひとりでもできないことはないが、こういうのはいてもらったほうが色々と助かる。将来、映画監督になりたいらしい撮影のカメラマンはこのあと来るらしいとして、それまでに誰かあてがっておきたい。




