248話
一九九五年、アメリカのハーバード大学にて、アルバロ・パスカル=レオーネという教授が興味深い実験をいくつか行った。
内容をかいつまむと『オーバーユーズとイメージトレーニングの関係性』。オーバーユーズとは文字通り『使いすぎ』、この実験ではピアノの練習のしすぎを意味する。
そのうちの実験のひとつでは『二時間の練習を五日間続ける』『二時間のイメージトレーニングを五日間続け、五日目にその後二時間練習』『何もしない』の三パターンに被験者を分け、パフォーマンステストをする、というものだった。
検証したところ、何もしなかったパターンを除いた二つでは、筋肉と脳の活性化という点において、技術の向上には差がない、という結果が出た。もちろん、イメージトレーニングを続けたほうは腱鞘炎などのリスクも減る。
個々人の差というものがある前提なので、誰にでも当てはまるわけではないにしろ、こういった論文が存在する以上、無視できない。かのピアニスト、フランツ・リストも、弟子へイメージトレーニングの重要性を説いていたという。
ただ闇雲に指で弾くだけでは効率が悪く、怪我もしやすい。ただ脳を使ってイメージするだけでも、体がついてこない。全身を使って、脳も使ってピアノを弾く。それこそが求められる練習方法なのである。




