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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
ヴォランテ
247/319

247話

 一度視線が合うが、その少女はもう一度ガラスの向こうのショーケースに焦点を当てた。


「スイーツ。焦って悩んでいるみたいだったから。私が今一番食べたいもの」


 何種類もの、色とりどりのお菓子が並ぶ中で選んだもの。


 つられてブリジットもそちらに目がいく。うーん、たしかに。フワンボワーズの食感を想像し、唾液が溢れる。


「……まぁ……美味しそう……いえ、じゃなくて——」


「自分用ではない。でしょ? だから店内に入らずに外から様子見。まず種類が決まっていないから。自分用だったら、店内で見るものね。だから決めてあげたの」


 フランボワーズ。キイチゴ。可憐な花と美味しい実。しかし気をつけないと、その奥に隠れた棘に少しずつ侵食される。少女は屈託なくオススメしてくる。


 まるで探偵のような推理。そう言われると……アリ、かな。いやいや、そうじゃなくて。ペースに乗せられそうだったブリジットだが、軌道修正。


「……それで、なにか用、ですか?」


 強盗、はない、と思う。仲間もいるわけじゃなさそうだし、というか、少しフランス語に違和感。カタコトではないけど、滑らかさに少しだけ。


 うーん、と首を傾げる少女。少し言いづらそうに。


「実はね……簡単にいうと迷子。ここがどこだかわからなくなって」


 自らの失態をケラケラと笑う。だってパリってわかりづらいんだもん、と。


 フランスでは、全てと言っていいくらいに、通りに名前がついている。逆にそれがややこしくしており、慣れていないと、名前だけでは全くどこを歩いているのかわからなくなるほどに。


「どちらかというと、焦ってるのはそっちなんじゃ……」


 少し安心して余裕が出てきたブリジット。人見知りだが、向こうから話しかけてきてくれるぶんには、会話しやすい。


 そして、少女はブリジットの胸元、コートの下の服を指差す。


「で。困ってたんだけど、モンフェルナの制服。私は、ほら」


 そう言って、自身もコートの前を開ける。その奥には、上は黒をベースにしたトップス、下は白のロングスカート。


 この服装をブリジットは知っている。知ってはいるが、初めて見た。


「あ……ケーニギンクローネ……」


 ドイツはベルリンにある、姉妹校。ケーニギンクローネ女学院。その制服。モンフェルナよりも少し、規律に厳しそうな。そんな所感。


 理解してもらったところで少女は再度コートを着直す。そしてまとめ。


「そういうこと。適当に見て回って、学園のほうに行こうと思ったんだけど……って時に、見つけちゃった。助かったよ。教えてもらってもいい?」


 このままひとり歩いていても、おそらく辿りつかないだろう。警察にでも聞こうか迷っていたが、どうせなら同じ学園の子のほうがいいに決まっている。


 花の都パリ。たしかに初めてで攻略できる人はそういないだろう、とブリジットも同情する。


「パリは長いこと住んでても迷うから……よかったら、一緒に行こうか?」


 見捨ててはおけない。一応、参考意見はもらっちゃったし。


 予想外とでも言うように、目を見開いた少女は確認を取る。


「え、いいの? 買い物に来てたんじゃなくて?」


 その通りではあるが、急いでいるわけでもない。また後日でいい。ベルと一緒に来たとき、とかでも。


「うん、特に予定があったわけでもないから。姉妹校だし、仲良くできたら。私は、ブリジット・オドレイ。でも留学? 成績、いいんだ」


 たしかGPA、成績平均値が最高に近くないと留学はできなかったはず。自分は……と思い出して苦笑い。


 しかし、あっけらかんと少女は内情を吐露。


「どうだろう。特例でねじ込んでもらえただけだから。それよりブリジット。よろしく。私は——」


 右手を差し出しながら、自身も名前を。名前。今は——。


「リディア・リュディガー。よろしく。楽しい一週間になりそうだ」


 強く握る。始まりの合図、とでも言うかのように。


 来る。嵐が。毒蜂と共に。小雨を手のひらで受け止めながら、リディアは前を歩くブリジットを追いかけた。

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