245話
そしてその中に生花以外のものがあることに、オードは気づく。
「これは……ナンディナベリーのフェイクフルーツ」
発泡スチロールやポリエチレン製の造花。アクセントとして非常に効果的な鮮紅色の果実。魔除けにも使われる。
「さらにクジャクヒバとアスチルベ。緑にアイリーンパターソン。こんな感じかな、って」
挿していくと、当然ながらクリスマスっぽさが増していく。自分で作り上げていっている、という充足感がベルに押し寄せる。
戸惑いつつ、悩みつつだが、少しずつアレンジメントが完成していく。これは手芸ではなく完全に花の仕事。同じようで違う世界を見ながら、しみじみとオードが呟く。
「なんか本当にフローリストっぽい」
以前作ってもらった時もそうだったが、最初は頼りない。今も任せられるか、というと怪しさはあるが、それでもその道をいく人だと、はっきりと認識できる。
少し偉そうに「ふふん」と息を吐きながら、口角を上げてベルは最後の仕上げに入る。
「一応は。まだ指名とか、実際にお客さんに出したことはないけど、フローリストの端くれだからね」
いつかは自信を持って。そう名乗ろう。
それは案外すぐかもね。口には出さないが、オードには見える気がする。
「ふーん、ま、期待してるわ。で、どう?」
特に難しいところはないが、気を抜かずにベルは整える。時間が経つと見え方が変わる。その時はどうなっているだろうか、そこも予想しながら。
「アイリーンパターソンを挿していって埋めつつ、クジャクヒバを隙間に。あとはアスチルベやベリーをバランスよく散らしつつ、って感じかな。でも気になるのは……どこに飾るか、っていう違い」
それにはオードも同意。
「それなのよ。高いところに飾るのか。それとも目線の高さか、それとも低い位置か。それによってメインになるものの位置を考えなきゃいけないの」
「ガーランドは飾る場所も自由。そこもしっかりと売るときには聞かないとだね」
ただ作る、だけではない。飾ったあとのこと。人々を癒す花の力。それが最大限発揮できるように。ベルは祈りを込める。
窓の外。ふと目線をそちらに。暖かな灯り。思わずアンニュイな気持ちが湧き上がってきた。目を閉じる。
聴こえる。花の声。冬の足音。チャイコフスキー作曲『一二月 クリスマス』。
完成したこのガーランドは。キミに届けるから。もう少しだけ。待っていて。




