239話
「あ、これに……」
心臓の鼓動を早めるベル。凝視してその時を待つ。
その視線を感じつつ、オードがひと手間加える。
「んで、これを、こう」
少し形を整えつつ、その中にガーランドを入れる。するとまるでプレゼント用に仕立てたかのような華やかさがプラスされた。
表情も綻び、ベルは歓喜の声をあげる。
「一気にオシャレな感じに! ……でも、ジェイドの言ってた花ってどうするの? 忘れてたけど……」
ひとまずガーランドが完成したことで、もうひとつ頼まれていたことがここで思い出されてきた。ゼラニウムの花。それを厚紙で作る……?
若干、脳から消そうと思っていた記憶だったが、諦めてオードもそちらに話題を移す。
「いや、あれはどちらかというと『スーパーフラワー』って技術に近いかな。高級な紙で作る贈答品。厚紙じゃないからカルトナージュとはいえないけど——」
「けど?」
やはり深い世界。全くベルには解決法が浮かばない。曲げにくい紙。どうするつもりだろう。
方法はある。だがただ切って貼ってだけではない、複合的な技術。さらに手のひらサイズ……よりも小さく。箱としては使うことはできない。それを箱として作る。
「……最も薄い厚紙を水に浸すことで曲げて、花びらの形に乾燥させる。それに布を貼り付けて組み合わせた花なら……できないこともない。いわゆる湿式成形」
ゼラニウムの花びらの数は五枚。ということは、外枠となる部分を丸めて作り、中を仕切る。一ミリでも製図が狂えばハマらない。コンパスを持つ手も震えるだろう。オードは気を吐いた。
緊張感が増した……それが伝播したベルも深呼吸一回。
「そんなものもあるんだ……ゼラニウムはそこまでうねった形じゃないから、できそうっちゃできそう?」
もしバラだったら。七種類あるといわれるバラの花弁の形。どれをとっても難しいだろう、というのがわかる。そのぶんシンプルなゼラニウムは、まだ可能性を感じる形ではある。か?
その点ではオードは感謝したいところ。作れるものと作れないものは確実にある。バラは無理。
「まぁね。だけどもう普通の作品を超えてるっつの。花の形の器や箱にする、とかならよくあるけど。さっきも言った通り、カルトナージュよりも『スーパーフラワー』のほうがまだやりやすいかもね。あれはあれですごい技術だけど」
あれも無理、と誇らしげに諦める。ジェイドの無責任ぶりで少し、いやかなりムカムカとした胃痛。
スーパーフラワー。日本発祥、特殊な紙を使った創作技術。花を『創り出す』ことができるため、大きさも自由、種類も、まだ発見されていないようなオリジナルの花も可能となる。当然水やりも必要なく、半永久的に咲く花となる。




