238話
しかし大事なことはどれだけ花屋の店員として、作成者としてお店に貢献できるかがベルには重要になってくる。
「手順は違ったりするの? 作るものが同じであれば、だいたい一緒?」
覚えておいて損はないだろうが、違うのであればそれを知っておかねばならない。またベアトリスさんに怒られるし。
少し考えるオード。なにかあったかな、と思考を巡らせるが、やり方に違いはあれど大まかには同じはず。
「基本は真っ直ぐなワイヤーの端に輪を作って、でスギを巻いていくだけだから。ただ、木は乾くと細くなって緩むから、かなりキツくすること。それさえ気をつければ、あとはなんとかなるわ」
大体みんな一度はやるミス。リースワイヤーの巻きが足らず、葉が外れてしまう。なので最初に伝えてその心配をなくすことが大事。
そしてワイヤーにテープを巻き、先端を曲げて輪を作る。さらにそれをテープで固定したら、あとは葉をワイヤーに沿ってリースワイヤーで巻き付けていくだけ。小さく花束のように作り、ジグザグにバランスよく。ここまでで数分。ベルが感嘆の声をあげる。
「ほんとだ。なんか適当に作ってもそれっぽくなる。むしろ、少し多いところ少ないところ、ってしたりしてアクセントにするといい感じかも」
お店で見たことあるようなものになりつつある気がする。しかし、細かい指示をもらいながらなので、やはり動画などを見ながら一人で、では最初はできなかったであろう、と大きく頷いた。
慣れてきた、と感じたところでオードが少し応用をきかせる。
「あえてワイヤーをカーブさせたり。さらに、カラマツやスターアニスをワイヤリングして、ヒバやブルーアイスなんかもグルーガンで糊付けすれば、もうこれで完成。ね? 簡単でしょ?」
難しい知識もいらず、特別仕入れることが難しいものもなく。なんなら、全てお店で手に入るもの。
だがその中に潜む落とし穴のようなものがあるような、ベルにはそれがあるような気がしてならない。
「簡単……だけど、どこまでも難しくしようと思えばできるような。それにこれはカルトナージュでは……ないよね?」
カルトナージュは箱というイメージが強い。だがこれはどう見ても花。自分の見知ったもの。
その質問は予想通り、とでも言うかのようにオードは微笑む。
「そう。カルトナージュは厚紙を使った装飾技術。だからこのガーランドを入れる箱、なんかを作ったらカルトナージュになるわね」
そして棚にある、花柄のトワルドジュイが貼り付けられた大きな箱をひとつ持ち出す。マリー・アントワネットも愛した、フランスの魂ともいえる布。




