237話
ひとつひとつの道具を手に取り、ベルによる素朴な質問。
「結局、これって花っていう扱い? それとも手芸? どっちが近いのかな?」
アレンジメント教室でも教えている。手芸教室でも教えている。となると、正しくはどちらに習うべきなんだろう。自分がもし教える立場になったとしたら。花として教えていいのだろうか。
それに関してはオードもはっきりとした答えは持ち合わせてはいない。免許が必要なことでもないので、誰が教えてもいいのだから。
「なんとも言えないけど、人類最古のフラワーアレンジメントは、このガーランドだ、っていうのは知ってるでしょ?」
花屋であれば当然の知識。が。
「……そうなの?」
窺うように上目遣いでベルは問い返す。でしょ? と言われても。
一瞬真顔になるが、この子もこういう子だったか、とオードは目をしばたたく。
「なんで知らないのよ……古代エジプトの時代から棺やミイラの副葬品だった、ってのが通説。ツタンカーメンの棺にはヤグルマギを編み込んだガーランドが、とかね」
壁画にも描かれているらしいので、どうやら事実。いまだにこうして作り続けられている。単純にすごい。
新しい知識をつけたベルだが、その中で結論を出す。
「じゃあ花、でいいんじゃない?」
メインとなっているものは花。であれば、ガーランドは花である、というのが自身の中では強い。服とか金ピカな腕輪とか、そういったものは手芸。手芸……ではないか……?
「でもそもそも、ガーランドっていうのは花や植物なんかを使った『紐状の装飾品』のことを指すの。そしてそれを円状につなげたものがリース。花束を逆向きにして壁飾りにしたものがスワッグ。似てるけど違いがあるわ」
細かい話にはなるが、きちんと小分けして説明するオード。その他、まだ色々あるのだが、大きく分けるとこの三つ。
唇を尖らせたベルは内容を噛み砕いて消化。自分にわかりやすく言葉を変える。
「なるほど……どっちとも言えるし、どっちとも言えない、と」
曖昧なもの。そういえばピアノも鍵盤楽器だったり打楽器だったりと曖昧に捉えられている。弾ければどちらでもいいけど。
「花の教室で作ることもあれば、手芸教室で作ることもある。花をどう扱うか、とかで変わるんじゃないかな。もちろんウチは生花は扱わない」
明確な線引きはオードにもわからない。別に花屋や手芸屋を営んでいなくてもいいわけだから、カフェオーナーでもレストランのシェフでも問題ないわけで。




