235話
しかしそれも柳に風。いつだってジェイド・カスターニュという人物は自分を中心に考えている。ダメなら断られるだけ。断りきれなくなるまで頼むだけ。
「オード以外に誰が作るんだい? 私はショコラで、ベルは花で、オードはカルトナージュで。それぞれの役割が上手いこと分担できている」
そうすれば私のショコラが完成する。そのためにみんな、頑張れ。
……できているからなんだっての? こいつの作品のために、なんであたしとベルが? 余計にオードは混乱。
「あんたがショコラで作るんじゃないの? なんでこっちに」
それか自分で作れ。やり方はどっかで探せ。
それなんだけどね、とジェイドの勢いは止まることを知らない。
「残念ながら、私のショコラは出来上がってて。最後にアイディアが思いついてしまったんだ。しょうがない。そうなるとカルトナージュで付けるしかないだろう。で、できるのかい?」
私の信じるキミなら。ほら。
目つき鋭く、舐め回すように睨むオードだが、頭の中には浮かんでいる。たしかにそういう技術はあるが、また異なる系統のもの。
「……できるけどムカつくからできない。正確には、少しカルトナージュとは違う」
「よし、決まりだ。ゼラニウムを頼むよ。それで完成」
パン、と手を叩いて、この話はここまでとジェイドは場を収める。
当然、納得のいかないのはオード。怒り、よりも呆れ。
「……あんた、話聞いてた?」
できない、と明確に言ったつもりだったが?
「あぁ。こういう言い方をする時のオードはやってくれる」
どういう変換があるとそうなるのかはわからないが、ジェイドは肯定と受け取った。よかった、これでバッチリ。
そうなると鼻で笑うしかないオード。湧き上がる感情。
「は。その期待、裏切りたくてしょうがない」
やってもいいけどバラを作ろう。そうだ、それがいい。
このやりとり。ベルの目には輝いて映る。
「二人は仲がいいんだね」
いがみ合っているようで実際には物事はちゃんと進んでいて。お互いのことがよくわかっていて。こういう友人関係、というのも憧れる。
ふふん、と誇らしげにジェイドが笑う。
「あぁ、彼女のご両親とも仲がいいからね」
「あんたが勝手にウチに入り浸ってるだけでしょ」
そのぶんオードは冷静に。バランスの取れた掛け合い。
「ともかく。オードのことは信頼していい。じゃ、ごゆっくり」
ポン、と軽くベルの肩を叩き、時給泥棒ジェイドは帰っていく。その先は戦場、キッチン。混んでいるのによかったのだろうか。
ハリケーンの過ぎ去ったあと。どっと疲れが増すオードだが、とりあえずやることは決まった。ガーランドとリース。カルトナージュバージョン。
「んじゃ、食べたら行こうか。場所はウチでいい?」
一九区にある専門店『ディズヌフ』。そこがあたしの家であり、職場でもあり、遊び場。




