表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
ヴォランテ
225/319

225話

 どちらかというと、ブリジットという少女は奥に引っ込んで傍観しているような子。それが、率先して前に出てきてくれている。友人としてベルは胸が熱い。


「ありがと、ブリジット。でも大丈夫。これは私がやらなきゃいけないことなんだから。いやごめんやっぱなにかあったら手伝ってくれたら嬉しい」


「訂正早ッ」


 舌の根も渇かぬうちに助けを求められたブリジットは、驚きつつも自然と微笑む。そして指が自然と。踊る。


 ショパン作曲『練習曲作品二五の第一番 変イ長調 エオリアンハープ』。奏でられる分散和音の音色が、自然の風によって音を奏でる弦楽器エオリアンハープを連想させることから、シューマンが名付けたとされる曲。


 エチュードというよりは詩、という言葉も残しており、音の粒だちよりも『うねり』を意識し、軽やかに響き合う。右手小指で刻むメロディー。まわりを巻き込む優しい嵐。


「……贅沢……」


 恍惚とした表情で音を取り込むベル。こんなにも上質なショパンを独り占めできる優越感。満足感。ピアノの詩人とも呼ばれるショパンの曲の中でも、特に美しさを感じる珠玉の曲。


 三分弱の短い演奏を終え、ひとつ息を吐いたブリジットは席を立つ。


「ベルも。ショパン縛りで」


 せっかくだし。これでおあいこ。自分も聴く側に。


 夢から覚めたベルは、一瞬でハンマーで殴られたかのような衝撃を受ける。


「え、私も? しかもショパン?」


 なにゆえ? さらに探求者の前で? 嘘?


 少しイタズラに笑みを浮かべるブリジットは、ポンポン、とイスを叩く。


「私だけ、ってのはフェアじゃない。ベルの音も聴きたいです」


 自分とは違うショパン。ベルだけのショパン。というか、他全員のショパン。上から下から右から左から。前から後ろから斜めからでも。ショパンの残した魂の形を眺めてみたい。


「え、えぇぇぇ……がっかり、しても知らないよ……」


 そんなにショパンを研究していないし、読み込んでもいない。表面をサラッと。撫でるような解釈。いいのかな……? とベルに自信はない。


 だが、それも新しい音。それを取り込んで、ブリジットはさらに上へ。


「いいから。ほら、座って」


 両肩を持ち、無理やり縛りつける。


 もー、と膨れつつもベルは切り替え。そりゃ、私もなにか返せるものがあるなら返したい。さて、なににしよう。私といえば……花? 花といえば——。


「じゃ、いきます」


 指を置く。ふと、ベアトリスの顔が浮かぶ。と同時に、言われたこと。『音の鳴る深さ』『重力』。少し前屈み。一度息を整え、覚悟を決める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ