218話
「……釣り合うかどうか、なんてその天秤ごと破壊する。これはそんなアレンジメントだ」
その言葉の終わりを待って、まるでスポットライトでも当たったかのように、自分は釘付けになりました。というのも、自分はバラなんかを予想していたのですが、全くそういったものはなくて。知らないものばかりでした。
その中で特に目を引くのは、落葉のような赤い色の筒のような花。花? 花なのかどうか怪しいくらい、特徴的で怪しさがあります。破壊。ふむ。その驚きに気づいたベアトリスさんから説明が入りました。
「……この赤い花。サラセニア・ラグーン。いわゆる食虫植物だ」
目を伏せて、細い指でスッと押し出されたその花々。
……ん? 聞き間違いでしょうか? 虫……虫ですか? 虫を食べる……花……? いや、もちろんそういった花があることは存じています。有名なところでいうとハエトリグサ、なんてのは見たこともありますし。ですが……アレンジメントに?
待ってください。少し、自分で考えてみます。この虫野郎、ということでしょうか? 彼女の周りを飛び回る、勘違いの虫野郎と。お前などただの養分だ、と。なるほどなるほど。そうきましたか。
ベアトリスさんはさらに続けます。
「英語のスラングにな。『ザ・ラヴバグ』というものがある。恋の虫。胸元にチリチリと虫でもいるかのように、相手のことを考えると落ち着かない様子からきているそうだが」
逆にこちらは少し落ち着いてきました。自分のことを言っているわけではなかったのですね。よかった。しかし、胸にいる虫。不思議な表現です。えらくロマンチックな……いや、虫はロマンチックでしょうか?
ですがなぜでしょう、ワクワクする自分がいるのも事実です。この小さなニット帽の中に、どんな宇宙が詰まっているのか。興味を持つな、というほうが無理ではありませんか?
「杉やコニファーといった緑。スイセン・ペーパーホワイト。沈丁花。なにをテーマにしているか、わかるか?」
赤・白・緑。もはや色だけでもわかります。そしてこの季節。ノエル、ですね。
「近いからな。そして仕上げだ。最後にこれを」
そう言ってベアトリスさんが取り出したのは白い……え? これって花? 素材ではなくて? モコモコとしたこれって——。
そのままその名前を待つ自分に、楽しそうにベアトリスさんは種明かしをしてくれました。
「コットンフラワー。フラワーとつくが、実際には実だ。アオイ科の植物となっている」
木の枝についたままの綿花。それを他の花と同様に挿していきます。そんなものまで、という驚きが強いです。暖かなニットの中に、ひとつの物語が完成したようです。説明はなくてもわかります。コットンの役割。




