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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
マルカート
217/319

217話

 バレーボールは、ボールを落とさないように。バスケットボールは、自陣のゴールにボールを入れられないように。ラグビーは、自陣にボールを叩きつけられないように。ように。ように。しないように。もちろん、それ以外にも失点する方法もたくさんあるわけですが、基本的には『負けない』のであればこういうことでしょう。

 

 では、音楽の世界はどうなっているんでしょうか? アルバムの販売枚数やライブの観客動員、動画の再生回数。明確な数字は出ますが、スポーツなんかよりも曖昧です。なにをもって、その人物はこの人物より上だとカテゴライズできるのでしょう? 好みが存在する世界で。


 クラシックのコンクールなんかは、審査員が決められた基準で、自分なりにそれが守られているかを判断し、採点。時々、評価が割れて審査員辞退。選曲の違い。審査員の好み。負けない音楽、というものはあるんでしょうか?


「恋愛に負けはない」


 〈ソノラ〉に到着して早々、ベアトリスさんからはそう言われました。今日はアレンジメントの受け取り日。足取りは重く、途中何度か引き返そう、体調不良を理由に日を改めよう、とも考えましたが、花は鮮度があります。せめて受け取るだけ。渡すかどうかは別にして。


 先日いただいたヒマワリのアレンジメント。家に持ち帰り、自室の棚に飾ってみました。一瞬でオシャレ度が増した部屋で、だからどうなんだというマイナスな気持ちも生まれ。花を見る度に、舞い散る雪を思い出す。そんな二日間でした。


「引き分けもない。勝ちもない。あるのは結果だけだ」


 ……わかるようなわからないような。たしかに、恋愛というものそのものからしたら、小さな小さな人間達がくっついて離れて、をいちいち勝ち負けだの判別してなんかいないでしょう。付き合っている人間がいるだけ。そういうこと、でいいんでしょうか?


「さぁな。だが結果しかないが諦めることはできる。この人にはもっと似合う人がいて。自分じゃ釣り合わなくて。そう思って、二番目に好きな人を作ろうとする」


 二番目。考えたことはないです。彼女のことだけ、それだけで道を決めてきたから。釣り合うため。彼女がピアノを上手くなれば、自分も上手くなって比重を。最初から差はあった。ですが同じ『音楽』という道を歩いていけば、きっとどこかで交わる。そんな気がして。


「その天秤——」


 店内中央のテーブルに置かれた花。そして、なにやらニット? ニット素材の四角いクリーム色の花器に収まっています。こんなのもあるんですね。鮮やかな色合いが自分の網膜に突き刺さり美しい、けれどまだ完成ではありません。花の意味を、音を聞いてこそ。

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