表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
マルカート
215/319

215話

 そして全ての愛を教授し終えると、シルヴィは深く息を吐いた。


「……ふぅ。これでよし。なに、礼には及ばん」


 バンバン、と女生徒の両肩を叩く。これで闘魂も注入。うん、いい感じだ。


 ゆらゆらと揺れ、おぼつかない足取りで、首も座らないベアトリス。生気が抜けている。少し紅茶の味がした。


「……」


 虚ろな目で弟を確認。思ったよりは元気そう。よかった。いや、よくはない。


 ここまで弱り果てた姉の姿を見たのは、長いこと一緒にいるシャルルにも初めてかもしれない。大切ななにかを奪われたような。いや、実際に奪われたわけだが。


「ね、姉さん……?」


 口の端から涎が垂れている。く、狂おしいってこうなるの……?


 肺から搾り出すように。力の限りでベアトリスは声を発する。


「……事故にあったと思え。忘れろ」


 ところどころ掠れた、末期状態。脳が焼き切れる。肋骨も痛い。というか全身。腕の関節とか。尾骶骨とか。


 うまいこと『愛』をインストールしてくれたと判断し、上機嫌のままシルヴィは踵を返す。


「じゃ、そういうわけで。また愛が欲しくなったら言ってくれ。じゃーなー」


 風のように。姉弟がドアに目を向けた時にはもういない。本当にいたのかさえ怪しいほどに、静かなそよ風が流れる。


 その場にへたり込むシャルル。重力に負けた。


「……なんだったの、一体……?」


 やっぱり夢? 夢だった? だが、まだ頬が痛い。唇も濡れている。現実です……! これが現実……! しばらくは色々な意味で立ち直れなそう。


 同じように倒れ込みながらも、ベアトリスは右手を軽く握って、人差し指の第二関節を噛む。気を失わないように痛みを与えつつ、考え事。そして、チラッと今日、渡す予定だったアレンジメントを横目で確認。


「姉さん?」


 静かに目を瞑り、脱力しきったその姿に、シャルルは心配する。自分以上にダメージが大きい?


 数秒間そのまま。顔を上げたベアトリスは、小さく浅く複数回呼吸。アレンジメント。自分の思う形とズレが生じている。


「……作り直しだ——」


 先ほどのどこが愛だ。相手の気力を奪ってどうする。なんでもかんでも許されると思うな。おかげでまた——。


「作り直し、って。えぇ……? また新しいの?」


 もうすぐ時間だというのに。唐突に予定変更する姉に、シャルルは聞き返す。が、どうせ一度決めたら無駄だというのもわかっている。


「……自分の納得のいかないものを出すわけにはいかない。それに、それを手間だと思うなら、この仕事は向いていない」


 素早く準備に取り掛かるベアトリス。新しいモノは浮かんだ。それに向けて最短距離で道を辿る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ