211話
完全に間違っている、というわけではない。そうでないフローリストもいるだろう。だが、階段を二段も三段も飛ばしたかのような解釈をされている気がするリオネル。冷や汗が流れる。
「シルヴィちゃん?」
まさか……? いやいや、相手は子供。五つも六つも下。ないだろう、ない。うん、ないない。
カッ、と目を見開き覚悟を決めたシルヴィの語調は力強い。
「任されたッ!」
「いや、任せてないけど……落ち着いてね?」
いや、ないよな? なにがとは言わないけど。どんどんと混乱の沼に引き摺り込まれながらも、リオネルは自身の考えが間違っていないか精査してみる。きっと、恋愛の素晴らしさを教えるとか。恋愛モノの映画を一緒に観るとか。そんなんだろう。
余裕たっぷりに鼻で笑うシルヴィ。言うな言うな。わかっている。通じている。
「大丈夫。あたしはあの二人の味方だから。なんだなんだ、やっぱり親心ってやつなのかなー」
ぐふふ、と変な声を漏らしながら、あっさりと引き上げていく。帰り際にスタッフに挨拶。買い物は……また後日。
その背中を不安そうに見つめるリオネル。心なしか呼吸が浅い。酸素、酸素が足りない。
「…………えぇー…………?」
一体なにをする気なんだろう。一応電話しておくか……? いや、あぁ見えてしっかりしている子だ。たぶん。
「シルヴィさん、なにかいいことでもあったんですか? 満面の笑みでしたけど」
そう声をかけてきたのは、不審に思った女性スタッフ、サキナ・ラクラル。まさかオーナーがなにか!? という可能性も捨てきれず、手に花を抱えたまま質問。
聞こえているのかいないのか。頭を抱えながらリオネルは、
「……俺って間違ってないよね?」
と中身も言わずに同意を求めるのみ。言うべきか。やめておくべきか。相談するべきことなのか?
この店での経歴も長く、ある程度オーナーのこともわかっているサキナ。もう面倒なので、
「そっスね」
と短く返し、職務に戻っていく。




