210話
なんとなーく無理やりではあるが、ここまではギリギリ、シルヴィにも理解できる。だがまだ解決できていないことが。
「で、あの二人とはどういう関係が? 愛が足りない、って言ってたけど。花は恋愛ものが多いってのと関係してる?」
持論も交えつつ、リオネルはその経緯を説明。
「簡単にいえば、あの二人は恋愛とは無縁だからねー。例えば俳優なんかも熱愛発覚とか結婚後のほうが、演技力が増すことってあるじゃない? やっぱり恋愛ものに出演するなら、実際の気持ちとかを深く知っておかないと、ってことかな。ま、期待するだけ無駄か」
それに、特にシャルルは許せん。俺様の逆鱗に触れたからには、一生知らんでいい感情。ベアトリスは……いや、やはり娘に手を出す男は許せん。こいつも一生このままで。でも子供の幸せを願うのも親なら……というジレンマ。
その意見をやっとシルヴィも噛み砕いて理解。が、少し曲解した行動の理論が、脳内で組み上がる。
「……」
一度吟味。たしかにたしかに。あの二人からはそういうキラキラしたものは感じない。言うなれば、おじいさんとおばあさんのような。つまり『青い春』がない、と。
「花ってのは、誰でも作れるし誰にも正解を出せない。難しいよねぇ」
とはいえ、愛というものを知っていればいいか、というと絶対にそうというわけでもない、とリオネルは長年培ってきた経験のもと、結論を出した。知らないからこそ作れる花もある、と考えている。どちらも甲乙つけ難い、それぞれの良さがあったりもする。
それを全く聞かずにシルヴィは未だ思考の底。
「……」
そんな彼女の状態に気づかず、リオネルは話を進める。彼としてはむしろ、その無鉄砲で無邪気なアレンジメントが好きだったりする。だからこそ、無理に子供達の進む道を修正したいとは思わない。野草のように自然なまま、あるがままに成長していく姿を見たい。
「ま、人それぞれだから。そいつなりの花があるわけだし。おじさんの戯ご——」
「てことは、恋愛すればあの二人はより、フローリストとしての高みに上がるってことかッ!?」
興奮気味にレジカウンターを叩き、シルヴィは一歩乗り出す。へーマチャンドラも数列を見つけた時、こんな感じだったのかもしれない。
「ん?」
なんだろう。非常に嫌な予感にリオネルは支配される。恋愛すれば? どういうこと?
そんな疑問符の浮かぶ空間のことなどお構いなしに、血の気が増していくシルヴィ。今度は腕を組んで大きく頷く。
「なるほど。花のことはよくわかんないけど、恋愛がフローリストには大事なのか……」
それは盲点だった、と考えが及ばなかった自身を悔いる。もっと早く気付けてもよかったはずなのに。




