202話
怪しむ自分に気づいたようで、そこでひとつ、試しにベアトリスさんはアレンジメントを作ってみることにしました。
「……ボッテジーニ作曲『コントラバス協奏曲 第二番』、これをイメージしてみるか。コントラバスが独奏の場合、まずやることがあるな」
そう言って店内を歩き回って花を選び出しました。なにやらブツブツと呟いています。
そうです。コントラバスは基本はメインになるような楽器ではないため、あまりやることはないのですが、独奏となると『ソロ・チューニング』という調弦をする必要があります。全音上げることなのですが、通常の弦だと負荷がかかり過ぎるため、これを行う必要があるのです。
全音上げる、と言うのは例えば本来『ロ短調』で弾く曲を『イ短調』で弾く、ということですね。少し華やかで煌びやかさを増すという名目です。独奏ですし、いいでしょう別に。コントラバスにスポットが当たったって。
「この曲には四つの顔がある。それを知っているか?」
なんでこの方はコントラバスに詳しいのでしょうか。失礼ながら、コントラバスが弾ける体格ではありません。二メートル近いこの楽器を扱うには、才能や気合だけではどうにもならない部分があるのですが、もしやピアノを弾く方なのでしょうか。
そうでした、四つの顔ですね。有名な話ですが、この曲はひと言でいえば『よくわからない』曲なのです。どうよくわからないか。楽譜というものは様々な出版社から出ているわけですが、彼の自筆の四つの譜面がイタリアのとある図書館に保存されていまして。
基本は『ロ短調』の曲なのですが、なぜか『ハ短調』の楽譜が見つかっているのです。オーケストラや伴奏で差別化しているわけではありますが、自筆ゆえにどれも正しい。どれも正しいですし、タイトルも『協奏曲』だったり『小協奏曲』だったりします。
なぜこのようなことになったのかというと、一説にはボッテジーニはパガニーニと同じように『一音半上げる』ソロ・チューニングを行っていたため、音が揺らいでいたからでは? だそうです。本人不在なのでわかりませんが、いつかさらなる証拠が見つかって、確定できたらいいですね。
「ならば、花も四つの異なる主張をするものを作り上げよう。この花は知っているだろう」
と、かかげてきたものは、夏を代表する花であるヒマワリ。当然知っています。が、異なる主張とはなんでしょうか。それに今は冬になりかけているのに。興味が出てきました。




