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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
トランクイロ
188/319

188話

 たしか、雑踏をずっと見ていた、気がする。自分だけが弾き出された輪の中のような気がして。レールから踏み外したような。


 思えば色々あった、とシャルルは胃が痛くなる。現在進行形で、だが。


「あれからまだ一ヶ月くらいしか経ってないんですよね。もうすごく前のように感じます」


 かなり密度の濃い一ヶ月。ランジス市場に行ったりもした。


 そんな中、なにかとっかかりのようなものを感じるベル。再スタートをきったきっかけのこの店。今はそれが全て。


「……私の始まり……」


「? どうかしましたか?」


 やはりいつもと様子の違う彼女に心配が勝る。シャルルは顔を覗き込んだ。こんな真面目な姿、初めて見たかも。


 あとひとつ。なにかあとひとつ。様々な観点から次に手をかける位置をベルは探す。そんな時に頼りになるのはやはり他の人。


「……初めて会った時と、今の私。なにがどう変わったとか、なにかある?」


 問われたシャルルは頭を揺らして思い返す。が、やっていること。自分への接し方。姉とのやりとり。結論。


「……あんまり」


 変わっていない。だが、それが心地よかったりもするのだが。


 とはいえ、そのことが逆にピースとなる場合もある。ベルは天井を見上げた。


「この店が私の全て。ピアノも花も。友人もなにもかも、ここが全て」


 花の声。音が降り注ぐような感覚。こういう時はだいたいいい演奏ができる。気がする。


 だが、今日に限ってのその変わりようにシャルルの表情が歪む。コロコロと変わるため忙しいが、原因はたぶん。


「……また姉さんになにか——」


「手伝ってもらっていいい? 今回のテーマは『自分自身』。でも、知識が足りない」


 熱量と冷静さのちょうどいいバランス。そんな脳内でベルが描いた花の像。一部ボヤけているので力を借りたい。


 なぜだかシャルルは、今から作られるであろうアレンジメントが「面白そう」と心の中で閃いた。そういうのは大歓迎。


「……わかりました。まず、どんな風にしようと思ってますか?」


 その手助け。どこまでできるかはわからないけど、やれることをやってみたい。


 花は決まった。だが、少し物足りなさを感じるアレンジメント。ゆえに、ベルとしては最後に締める部分。そこのバリエーション。


「なんかこう、個別に分けられるようにできる手法とか、あったら教えてほしい、かな?」


 その提案に、自身ではまだ作ったことはなかったが、試してみたいと思っていたものがシャルルにはあった。そのすぐそばのバケツに水揚げされていた、葉の大きな植物を手にする。


「個別……となるとこのハランなんかいいかもしれないですね」


 艶のある多年草。元々は中国の大きいラン、という意味でバランとも呼ばれていたが、いつの間にかハランと変わった植物。葉には殺菌効果もあり、食べ物を仕分ける時に使われることも。

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