181話
白を基調にした壁に、床には焼き物のような色合いのテラコッタ風タイル。コの字構造かつ框のあるキャビネットのオープンキッチン。リビングにはガラス製のテーブルの上にはマグカップが三つ。そして父と母と娘の三人。議題。『フローリストが見落としがちなこと』。
「っていうことなんだけどどう思う?」
ネットなどで検索などかけても意味はない。見落とす、という意味の単語を詳しく説明してくれるだけ。ソファーに座りながら、まだ悩んでいるベルは、ならば、と事の顛末を伝えて自身の親に助けを求めることに。
向かいの同色の紫色のソファーに座る母、セシルは訝しみながらハーブティーをひと口。
「どう、って言われてもねぇ。まぁ、自分で考えてみるしかないんじゃない?」
壁に頭を叩きつけそうなほどに唸っている娘を見ていて、心苦しいのはもちろんなのだが、それ以上にあまり邪魔をしてはいけない気がしていた。あの二人になら任せておいて大丈夫だろう、と安心しているから。
結局有力な情報は引き出せそうにないベル。このままでは寝ることもできない。いや、できるけども。
「……どんどんワケわかんなくなっちゃって……」
そもそもが相反している。伝えるけど伝えない。もはや花を使用している時点でなにかを伝えているはず。なのに伝えない。仕事放棄?
「悩めるうちは悩んどいたほうがいいわよ。大人になると、悩む時間もなくて、それっぽい答えを出さなきゃいけないことだってあるんだから」
ゆえに今は成長できる時。まわり道が経験値を積むチャンス、とセシルは結論づけた。なので解答はなんとなくわかるが、答える気はない。伝えるけど伝えない。そして花。そういうこと。
しかしそれでもベルは食い下がる。
「ヒント! ヒントだけでも!」
ここまできたらズルだろうがなんだろうが、スッキリした気持ちで明日を迎えたい。
そして先ほどまで聞きにまわっていた父、ファビアンもこの会話に参加する。が。
「よくわからないけど、なんでかいつの間にか伝わっている、ってこともあるからね」
下手なことは言わないほうがいい、と判断して当たり障りのないことを述べるに留めておく。やりすぎてしまうと妻からあとでなにかしらの制裁が降る可能性が高い。
なんとなく、雰囲気からもベルは父もなにかを察しているのでは、と怪しむ。なんといっても過去に両者共に花屋で働いていた経験がある。だからこそ救済を求めたわけではあるが。
「パパもわかる?」
できるだけ甘く聞いてみる。母は教えてくれなさそうなので、こちらから絞れるだけ情報を絞ろう。




