178話
ずいっと顔をシャルルに寄せたレティシアが、蠱惑的に提案。
「そんなことよりパーティー抜け出さない?」
「抜け出しません。なんですかその映画のワンシーンみたいな誘い方……」
これってパーティーだったのか……? と、無意味なことを考えつつもシャルルは即座に断る。抜け出す、と言ったらどこに連れて行かれるのだろう。
三者三様で自分のやりたいように振る舞う者達。ベルもバラを見ながら話しかける。
「私が一番似合ってると思うのに……」
根拠はないけど。似合う人でいたいとは思うけど。
全く集中していない生徒達に、怒りは湧いてこず、呆れともとれる最大級のため息をこぼすベアトリス。そもそも生徒ではない。
「……シンコペーションだ」
ポロッとヒントをこぼす。さっさと帰ってもらうには、この講義を終わらせるほうが早いと判断。
「は?」
しかし、当然の如くシルヴィは困り顔。なんて言った? シン?
一番身近で悩むヤツは置いておいて、理解できそうな者をベアトリスは選択する。
「わかりやすく言えば、シンコペーションのようなものだ。わかるだろ、それくらい」
その目線の先にはベル。自分に突きつけられている、と判断した。
「いや、私はわかります、けど……」
と、周囲を確認。遠い目をして自身のほうを見つめる人物が二人いる。
勝手に進んでいく会話に、無理やり混ざろうとするシルヴィ。脳内はこれまでの人生を映像・音声で駆け巡るが、ヒットはしない。シン……?
「もっかい言って?」
「シンコペーション。なんかどこかで聞いたことあるわね。ベルだけわかるってことは、音楽用語ってことかしら」
一応、聞き取ることだけはレティシアはできた。とはいえ意味はわからない。どこで聞いたのかも不明。とりあえず愛しの彼を眺める。
「いや、音楽のことは僕に聞かれても……」
無駄に流れ弾に当たったたシャルルは顔を背けた。というか、まだ『フォームフラワー』しかやってないんだけど……。
言った手前、しっかりとまとめないとベアトリスも少し気持ち悪い。急ぎ足で雑に進める。
「シンコペーションは、大雑把のさらに大雑把に言うと、リズムに変化を与えて掻き乱すこと。突然、規則正しかったものを崩すようなイメージだ」
実際にはもう少し拍など詳しく解説する必要はあるが、今はいらない。だいたいでいい。
そこまで細かく噛み砕けば、音楽に疎いシルヴィでも理解は容易い。
「ほほぅ。んで、それがどう花と繋がるんだ?」
それに関してはベルから解答が飛んでくる。自分の考えとのすり合わせも兼ねて。
「これは曲の盛り上がるタイミングなんかで使われたりするんだけど、強調したいところで使われることが多い、かな。たぶん、そういうことなんだと思う」
なんとなく言いたいことがわかる気がした。花と音楽は似ている。そう言われたことが、徐々に身に染み込んでいくような。




