176話
「例えば——」
その少年、シャルル・ブーケは四本、四種類の花を手に取りテーブルの上へ。大雑把にだが、それらは形が大きく違いがあり、わかりやすく分類できるもので。
「それぞれの花には、それぞれの役割があって。このように四つに分けることができるのですが——」
「『フォームフラワー』『マスフラワー』『フィラフラワー』『ラインフラワー』だね、うん」
自分自身を落ち着かせるように、言い聞かせるのはベル・グランヴァル。そのうちの一本の白い花を手に持った。
はい、とシャルルは嬉しそうに頷く。
「まずはそのユリ。個性的な形を持つこのタイプは『フォームフラワー』。強い印象を受け手に与える、中心となる花」
だいたいの問題の発端かつ中心である彼女には相応しい、とは口が裂けても言えない。
続いて、二本目。赤いバラを手にしたのはレティシア・キャロル。棘に気をつけつつ、香りを楽しむ。
「なら、バラと言ったら私ね。ほら、そんな感じでしょう?」
花弁に舌先で触れる。まるで映画のワンシーンであるかのように、全ての行動が絵になる、少し大人びた少女。
しかしそれに納得のいかない少女が異議を唱える。
「なんでだよ。あたしもバラがいい。高貴な感じがさぁ、いいよな」
シルヴィ・ルクレールはそのバラを奪い取り、我が物とした。花といえばバラ。つまり主人公。そういう思考回路。
ここでさらに、すでにユリを受け取っているはずのベルも参戦する。
「それを言ったら……私も……」
ユリはユリで好きだ。だけど、やはり花はバラを中心としている。気がする。様々な品種、色、形。花の女王様といえばバラになるだろう。王様は……キングプロテア?
「いや、ベルは終わり。ひとり一回。一本。普通はそうでしょ」
正論、なのかはわからないが、ズルは許さないシルヴィがそれを却下する。ならそれもよこせ、と。
だが頑なにユリも離さないベル。もらえるものはもらう主義。
「そんなの決めてないし。全部に当てはまるならそれはしょうがないし」
「なら、一番似合う人のところにあるべきね」
再度、余裕を含んだ笑みを浮かべながらレティシアがバラを手にし、そしてキス。しつつ、それをこの場に唯一いる男性に向ける。
三者がいがみ合う中、ひとり取り残されたのはシャルル。この人達と一緒だと、どうしてもため息が増える。
「……いや、どれがいいとか、そういう話でもないですし、そもそも誰かに当てはめるために用意したわけでも……どれも大事な要素ですから。優劣はないです」
事実、どれもが花を語る上で外せない存在。もちろん、あえて外すアレンジメントなど無数にあるが、クラシック音楽における弦楽器や管楽器、打楽器などのように、上や下というものがあるわけではない。




