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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
ブリランテ
171/319

171話

「え、もう終わり?」


 なんとなく、職人のオーラのようなものがベルから消え去った気がして、オードの声は上擦った。時間にしてほんの数十秒。ささっと、完成してしまった?


 だが、ベルは自慢げにあとひとつ、文字通り花を添える。


「ふふーん。まだまだ。ラストにさらに追加するよ」


 ひっそりと、店にインテリアとして置かれていた、『これ』も使う。使っているアレンジメントを見たことがある。面白いな、と感じていた。


 ポン、と最後に花に混ぜられたもの。ボンボニエールから飛び出す、花達に支えられるように乗っかった小さな球果。

 

「これって——」


「そう、『松ぼっくり』。可愛いでしょ?」


 マツカサとも言われるそれは、その独特な形状から、アクセントとしてアレンジメントに多々使われる。さらに、今回使用されたものはヒマラヤ杉のもの。これは特殊な形状をしており、それはまるで。


「……なんかさぁ、バラ、みたいな形してない?」


「正解。シダーローズってやつね。なんか気持ちいい違和感、ていうのかな。面白さが加わるよね」

 

 見れば見るほどに疑問を抱くオードが気づいたこと。その球果の形が、まるでバラのようになっている。ベルが返答したように、ふんわりとアレンジメントに効いてくる。


 まじまじと観察するオードだが、ひとつの可能性に行き着いた。


「……もしかして、この松ぼっくりって——」


 視線をベルに変えると、ヴァイオレットの瞳と合う。


「そう。ボンボニエール、つまり砂糖菓子をイメージしたの。ポップコーンみたいに、弾けるような感じで」


 ヨーロッパでは結婚や出産などのお祝い事の際に、ボンボニエールを贈る習慣がある。キャンディや金平糖などを入れる以外にも、食べ終わったらアクセサリーを入れる容器としても活躍する。その華やかなイメージに、バラが似合うとベルは考えた。


 となると、この三種類の花にはどんな意味が。オードは先へ進む。


「メインがこの紫のだとして、これらはどういうヤツになるの? 聞かせてもらってもいい?」


 テーブルに両肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せる。楽しみ、という意味を内包するポーズ。


 なんとなく、この瞬間にベルは〈ソノラ〉の一員になれた気がした。求められる答え。そして、滑らかに伝える会話。


「それはね……ボンボニエールのもうひとつの意味。『幸福が宿る』。それを体現した、って感じかな」


 ボンボニエールは、そのものに幸福が詰まっている、という風に考えられている。先のように祝い事に贈るのも、こういった考えから。『砂糖菓子』『幸福』、この二つこそが込められた意味。

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