169話
「……え?」
まさかの展開に、ベルの瞬きの回数が増える。いやいや、ここって、だって——
「……どうだろ、ありがたいけど、私の働いている店じゃないし、勝手に花を使っていいのかどうか」
と、ほんのりと弱く拒否する。だが当然。なにか理由があって仕入れたかもしれない花もあるだろう。使ってしまっても問題が発生しない、とは限らない。
「いや、今いないし、留守番任されてるんでしょ? じゃあ、今この店の代表はベルなわけで。いないM.O.Fより、いる留守番。で、いいんじゃない?」
無理やりな理由でオードはアレンジメントを勧める。が、言ってから気づくが、前まで自分はこんな強引に話を進める人間ではなかった、と断言できる。『あいつ』の影響か……と肩を落とした。この間、わずか二秒。
「えぇ……? いいの、かな……?」
まぁよくはないだろうが、少し作ってみたくなったのは事実。オードのイタズラな気に同調し、目は、脳は花を選び出した。
なぜかわからないが、その気になってしまったベルを、オードは一応嗜める。
「いや、あのね。たしかに言ったのはあたしだけど、無理に、ってわけじゃないからね。なんか……こっちこそ、ごめん……」
自分の発言がきっかけだったが、冷静になってみて、まだ戻れる位置。ベルの行動を修正にかかる。しかし。
「……ううん、大丈夫! よし、やってみる! 任せて!」
変なスイッチが入ったベルは止まらない。感情の振り幅が大きい。落ち込みの反動も手伝って、よりやる気に満ち溢れている。
「そ、そう? じゃあ、頼むよ……」
もうどうにでもなれ。自分は一応止めはした。そこから先は自己責任。オードは店に心の中で「ごめんなさい」と謝っておく。
「さてと……! どうするんだろう?」
やる気は先行するのだが、行動だけが急停止する。なにせベルはこの先を知らない。一度、ママに作ったことはあるが、お客さんではない。
「どうする、って……なんか決まり事とかあるんじゃないの? どういうところに持っていくとか、テーマとか、色とか」
なぜか自分が主導になっていることにオードは首を傾げるが、よく考えたら自分がお客さんだ。こちらから役割を演じなければ。
「そうだね……せっかくだから、この『ボンボニエールのカルトナージュに合う』アレンジメント。って大丈夫?」
最初に取り出した、本来は砂糖菓子の容器、ボンボニエール。リオネル・ブーケになんとか取り入ろうとしたものだが、いないので仕方なしにベルで。
「え……これで? これ、で……」
まさか自分にその役割がまわってくるとは。受け止めたベルの表情は固い。普通の花器で考えていたが、カルトナージュとなるとドライフラワーか、セロファンを敷いたオアシスか。




