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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
ブリランテ
163/319

163話

「え、え、え? 白? 白だと、今は、オススメは——」


 と、店内を見回す。ノエルが近いだけあって、白い花は多い。レンガ調の壁に掛けてある白い花。な、なんだっけ……? 普段ならすぐに出てくるはずなのに、見覚えのあるはずの花の名前が出てこない。


「ちょ、ちょっとお待ちくださいね……」


 他、他に花! 白、白いのがいっぱい! あれ、あれなんだっけ、〈ソノラ〉でも見かけて、いいなぁとか思ったはず! なんだっけ、なんだっけ……!


 名店の名前を穢してはいけない、と必死に落ち着こうとするが、余計出てこない。とすると、どうすればいい。と、悩んだところで、言われたことを思い出す。


「そ、そうだ、名前を聞いておけばなんとか……!」


 名前を聞いておいてくれれば、あとで掛け直す。そう言われていた。瞬時に思い出した、私、やればできる!


「お、お名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」


 言えた。これで、名前をメモっておけば、あとはなんとか……! 企業とか会社とかばっかりだっていうし、なんとかなる……!


 すると、電話の向こうの人物が、静かに口を開いた。


 《ベアトリス・ブーケ。場所は八区》


「はい、ベアトリス・ブーケさん、八区ですね……ん?」


 どこかで聞いた名前。そして区。んん??


 《なにやっているんだ? お前》


 落ち着いて聞いてみると、なんだか知っている声。よく罵倒される系の。


 《それじゃあな》


 それだけ言い残し、電話の主は切った。特に注文とかではないらしい。


 あたりに静けさが戻る。外の喧騒がよりお店に入ってくるようで、先ほどよりも大きく聴こえる。電球の明るさが眩しい。


 ……とりあえず難は逃れた。そして放心状態のまま、その場にベルは崩れ落ちる。


「……あの人は……!」


 おそらく、私の焦る姿を想像したかっただけだ、と予想した。そのためだけに電話。高確率であり得る。


「……はぁぁぁぁ……」


 体全体を使って呼吸する。全身に酸素を送る。落ち着いてくると、いや、自分の責任だ、という考えが巡ってきた。引き受けたからには、しっかりとできることを全うし——


「あのー、こんにちはー」


「はぃぃぃぃッ!」


 今度は電話ではなく、ドアを開いて来店したお客さんに声をかけられた。若い女性だ。集中が受話器に向いていたので、違う方向からの力に弱い。またも、大きな声でさけんでしまう。


「……大丈夫? オーナーさんいる? 話があるんだけど」


 怯えるベルの顔色を伺いながら、女性は店内をキョロキョロと見回す。見える範囲には、あのリオネル・ブーケはいない。なら、聞くほうが手っ取り早い。


「いえ……今は外してまして……どういったご用件、になりますか?」


 落ち着いてベルが観察してみると、同じ年くらいの女の子。怖そうな男性、とかだったらまだまともに喋れないかもしれないが、緊張は軽減されてきた。少しつっかえながらも、それっぽく対応する。

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