表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
ブリランテ
160/319

160話

 パリ一〇区。雑誌にも度々載る花屋〈クレ・ドゥ・パラディ〉季節やイベントを先取りした花を取り揃え、多種多様な花器に花が挿されているのみ。現在はノエルが近いため白い花を多めに取り揃えているが、店内の動線にはピンクや黄色、紫に赤など、心躍る美しい花達が出迎える。


 そんな中で惚けながら立ち尽くす少女。ベル・グランヴァル。本来はピアニストを目指していたのだが、色々あってフローリストも目指すことになった彼女。それが仕事場である八区の〈ソノラ〉ではなく、なぜここにいるか。


 二時間ほど遡る。


 《悪い、ベティー。誰か今日借りられるか? 配達とサロンの発表会で、こっちに誰もいなくなっちまう》


 そんなリオネルからの電話が〈ソノラ〉にかかってきたのが、午後の一五時過ぎ。応対用のイスに座り、お客様対応するシャルルを見ながら、ベアトリスは断った。


「ふざけるな。ブッキングはそっちのミスだろう。なぜこっちが圧迫されないといかんのだ」


 そうでなくても、最近はシャルルといる時間が少ない。これは中々に由々しき事態。それを取られるのは父親であっても許されない。


 だが、そこはリオネルも食い下がる。


 《そう言うなって。ほんの一、二時間だから。電話番と、荷物受け取りだけ。詳しいこととかは、あとで掛け直すから、誰からかかってきたのか。来店したお客さんには事情を説明して、そっちも後日掛け直すってことで》


 本当にただの留守番。しかし、それがさらにベアトリスの火に油を注ぐ。そんなことのために人手など割けない。


「断る。こっちも忙しいんでな」


 そして電話を切ろうとした瞬間。


「こんにちはー!」


 溌剌とした挨拶をしながら入店する少女の姿。店のアルバイト、ベル・グランヴァル。学校終わりということもあり、疲れから脱力気味……というのとは無縁。ここ最近、こんな風に活力が漲っている。


 真一文字に結んだベアトリスの唇。ベルの姿を認めた瞬間、その口角がほんの少しだけ、上がる。


「……いや、ひとりいる。暇そうなのが。すぐ送るから少し待ってろ」


 《え? 誰? だ——》


 そこでリオネルの声は途切れる。なにか言いかけていたが、そんなものは無視。


 電源ボタンを押したベアトリスの目は、獲物を見つけたように鋭利になる。


「ちょうどいいのがいたな。一石二鳥だ」


 その矛先であるベルの顔は緩みっぱなしだ。いいことがあった、と言えばそうなのだが、それ以上に高揚感、達成感が彼女を支配する。


「いやー、今日もいい香りだね! 星占いは一〇位だったけど、まぁ占いだから!」


 と、誰に言っているのかはわからないが、澄んだ声が『音』を意味する店内で響き渡る。


「……大丈夫……ですか?」


 一歩引いたシャルルも、目が若干泳ぐ。ここ数日、シルヴィやレティシアにいいように自身がオモチャにされても、ベルの振る舞いの関心が薄い。以前だったらキッパリと守ってくれていたであろうシチュエーションでも、「まぁまぁ。みんなのものだから」と、ヌルっと間に入ってくるのみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ