148話
なぜ困惑する? というような表情でシルヴィは、
「焼き物コーナー」
と、さらりと言ってのける。よさそうなものがあったから持ってきた。それだけ。金額も手頃。なら、アレンジメントに使うでしょう。
だが、一応シャルルは抵抗してみる。
「特殊すぎません?」
無駄だとは思うが、言うのはタダ。だがこの人達の性格を考えると、「そうだね」とはならないのは、知り合って短いが、なんとなくわかる。
その予想通り、
「でもお客様の要望に応えるのも仕事よ。これはどういうメッセージを込めるのかしら」
と、レティシアがこの焼き物アレンジメントに乗っかる。シルヴィのチョイスには満足。さて、ワガママなお客様にはどう出るのか。
「まぁそうですけど……」
渋々ではあるがシャルルは了承する。とはいえ、やったことがない、というのは、まだ楽しめる部分があるということ。これはこれでアリなのかもしれない、と楽しむことを優先した。
購入した焼き物を手にするシャルルの肩に、レティシアは手を添える。
「押しに弱いわね」
そんなのじゃこの先大変、とひとり心の中で呟く。
しかし、シャルルは先ほどの渋い顔とは打って変わり、アレンジメントが待ちきれない、といった表情。
「まぁ、でもある程度もう頭の中でできてますから。早く行きましょう」
シャルルが先頭に立ち、鉢物パビリオンへ戻る。来る途中に見かけたあの花。そしてグリーン。水の染み込んだオアシスは、資材コーナーでひとつおまけでもらえたので、これを使う。
自動ドアを抜け、到着するとシャルルは三人に指示する。
「少しカフェで待っていてください。すぐ買ってきます」
そう言い残し、どこかへ去っていった。買うものは二つ。急いで向かう。
残された三人はただ待っているのも暇なので、指定されたとおり、近くのカフェへ。食品の業者や買い手は、衛生管理のために白衣を着ているが、普通にそのままカフェにいたりするので、少し驚きつつも席に着く。
窓際の多人数席に座ることができたが、まだ外は暗い。あまり人は多くなく、今はまだ嵐の前の静けさ。このあと、本格的に市場が目を覚ますと、二〇はあろうテーブル席はもちろん、立ち飲みのカウンターまで埋まって待ちが出るほどだ。
暖かいコーヒーを引っ掛けつつ、往来する車の群れを見ながら、ベルが口を開いた。
「……なんか、すごいところに来ちゃった気がするね」
立ち上るカップの湯気。そのフィルターを通して見える世界が、夢のようだとひと息ついた今、しみじみと感じられる。




