表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
スピリトーゾ
147/319

147話

「あと、ティーカップがどっかにいってしまったので、新しいのを買おうと思ってます。まだ新品だったのに、どっかいってしまって。北欧ブランドものだったんですけど……」


 悲しげにシャルルは声をトーンダウンさせる。カップといったものも売っているが、その他、燭台など花器とは一見無関係のようなものもある。花だけのための資材コーナーではないため、インテリアのようなものもかなりある。


「ドライフラワーも資材、っていうカテゴリなんだ……」


 その中でベルは、アジサイやミナヅキなどのドライフラワーを手に取る。使ったことはないが、この穏やかな色合いと、独特な安らぎ感が心地いい。カフェで、レジなどに無造作にドライフラワーが置かれていることも、パリではよくある。それがなんとなくオシャレだったりするのだ。


 資材として売っているイスに腰掛けたレティシアは、座り心地を確かめる。少し歩き疲れたのもあるが、落ち着いたところでひとつ閃く。


「せっかくだから、私たちが選んだ花器に合うアレンジメントを、この後作ってくれないかしら」


 と、シャルルを捕まえて提案。ただの戯れ。とくに理由もないが、せっかくこれだけあるのだから、どんなものを花で表現するのか、気になる。生花もたくさん売っているし。


 自身を指差したシャルルは、その言葉の意味をゆっくり消化する。


「僕が、ですか?」


「せっかくお金もいただいたことだし。これだけあればなにかしら、面白いものもあるでしょう」


 遊びではあるが、特にテーマもない時、どんなアレンジメントをするのか。お手並み拝見とすることにした。


 たしかに、とベルも乗り気になる。


「私も見てみたいかも」


 自分も店では練習で作らせてもらってはいるが、シャルルやベアトリスのようにはいかない。どうすればいいのか、参考にしなければ。


 悪戯な笑みでレティシアはシャルルを惑わせる。この子の色んな表情を見てみたい。


「面白いでしょ?」


「いや、今日は買い物だけで——」


「じゃあこれで!」


 と、シャルルが否定するより先に、シルヴィは花器を持ちよる。だが、それは花器というにはあまりにも異質。まるで電車のような、というより輪軸もあるため、モチーフは電車だろう。上の部分と窓が開けている。花が挿せればなんでも花器と言えるのであれば、一応は言えなくもない。


 手に取り、まじまじと観察するシャルル。掌に収まる小さなサイズ。なぜこんなものが。


「いや、どこに売ってたんですかこれ」


 今までに色々な花器を使ったことはあるが、電車は初めて。いや、ほとんどのフローリストは出会うことなく生涯を終えるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ