146話
自分達は連れてきてもらった身ということで、付き添いのベルは、今日の予定はシャルルを尊重する。
「シャルルくんは、花以外にはどこに行く予定だったの?」
どんなものがあるのかいまだにわかっていないので、とりあえずついていくだけ。それでも見ているだけで面白い。
うーん、と悩みながらもシャルルは答えをまとめた。
「行けたら、花器を見に雑貨店に行こうかと。花だけではなくて、花器も大事ですから」
アレンジメントにおいて、花器もそのひとつを担う。必ずなにかしらの意味を持たせること。料理でも『器は料理の着物』という言葉があるように、それと合わせてひとつなのだ。
「たしかに……でも花器とはいえないものも花器にできちゃうから、奥が深いよね……」
新米のベルも納得、というように唇を尖らせた。
ティーカップですら花器になる世界。ドライフラワーであれば、もはや水すら必要ないためさらに広がりを見せる。終わりはこちらもない。
生花は鉢物や切り花など、部門は数種類ある。そのため、目移りしてしまいそうになるが、シャルルは一目散に目当ての資材売り場へ向かう。すでに一一月に入ったため、早いところではクリスマス仕様の売場となっている。小さな木の小屋まで建てるところもあるほどだ。
鉢物のコーナーでは、スチール製の棚が規則正しく並べられ、その中には金柑や観葉植物など、豊富な種類の木々が大量に敷き詰められている。ひとつくらい買おうか、という気にさせてくるがそこは我慢をし、自動ドアを潜り抜けて資材のコーナーへ。
「いや、どんだけ種類があるの……」
花もすごかったが、再度ベルは一歩後ろに引いた。
到着した資材パビリオンは、生花よりも鉢物の売り方に近く、スチール製の棚が大量に配置され、その中には様々な材質の花器やキャンドル、バケツやジョウロなど、花に関わるもので溢れている。ホームセンターをさらに拡張拡大させた、というほうが正しい。
もちろん、資材からインスピレーションを受けて活ける花もある。そのため、花器などを見るだけでも面白い。のだが、初めてのベルの目には収まりきらないほど、様々な資材が流れ込んでくる。
「花器以外にも、リボンやラッピング専門でやっているお店もありますからね。一生使い切れる気がしません」
それもまた、アレンジメント。リボンやラッピングが主役となることもある。お客が求めるもの。それがなんなのかによっても変わる。そのうちのひとつをシャルルは手に取った。キノコの傘の部分のような竹編み。中央に少し大きめの穴が空いている。
「これなんかすごくいいです。竹や籠のようなものを、花瓶にランプシェードのように置く。少し、日本の和のような雰囲気が出ます。あえてそういう使い方も楽しいんです」
目を輝かせてあれもこれも、と手に取る。まるで誕生日プレゼントを選んでいるようだが、これも仕事の一環。それでいて趣味。レンガのような色合いの、地面のコンクリートが冷たい印象を受けるが、むしろ日によって販売主が変わるその一期一会が、より買い物熱をヒートアップさせる。




