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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
スピリトーゾ
144/319

144話

 表情は全く動かさないでフィリップは断言する。


「当然だ。ウチよりいい菊なんてあるもんか。どれにするんだ?」


 もう選ぶ花は決まっている。それも知っている。というより、今日という日はみな、この花を選ぶ。あとは色だけ。


 顎に手を当てリオネルは花を吟味する。どれも甲乙つけがたい。それもそうだろう。花はただ、精一杯咲いているだけ。悲しいとか、寂しいとか、そんなものは関係なく、いつでも自分の役割を全うする。


「そうだな、去年は白だったから今年は……黄色と紫かね」


 理由はない。そんな気分だから。昨日だったらピンクだったかもしれない。だが、それでいい。今の気持ちを、伝えたい人にただ伝えたいだけだから。


 ジッと見つめた後、フィリップは踵を返し、背中で語る。


「好きなの持ってけ。にしても、なにやら嬉しそうな顔だな」


 いつもニヤけた顔はしているが、今日は一段と怪しい。長年の付き合いで、微妙な差異にも気づける。これはいいことがあった時のコイツだ。


 鋭いね、とリオネルは自慢話。


「息子が女の子を三人も連れてきてな。俺のDNAが強すぎて困る」


 今は子供達の将来のことなどが、気になって仕方がない。


 別に聞きたくもない内容だったが、フィリップは一応反応してやる。そういえば、と過去を回想した。


「昔のお前さんも、買い物に来たんだか、イチャつきに来たんだかわからなかったな」


 知り合ったばかりの頃は、ここをデートスポットかなにかだと勘違いした、イケすかない男。いつの間にか偉い立場になったな、と鼻で笑う。


 あー、と脳内に刻まれた過去を呼び覚ますと、リオネルはパンッ、と手を叩いた。乾いた音が周囲に響く。


「そんなこともあったな」


 若かったしな、と自分を肯定。色々な経験が今に繋がる。


「何度もな。毎度あり」


 一度だけではなかった、と訂正しつつ、フィリップは二つの菊と領収書を手渡した。


 数日以内にまたここで会うだろう。だが、フランスにとって、今日という日は特別なのだ。


「ああ、じいさん。長生きしてくれよ。死んでもウチの店に取り憑くな」


「あと三〇年はここにいるさ」


 ジョークで返すフィリップだが、リオネルからしたら本当に生きてそうで、疑う余地がない。それほどまでにパワフルなじいさんだ。


「妖怪め」


 そう例えるので精一杯。まだ、この人に色々な意味で勝てる気がしない。

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