141話
元々、ランジス市場はバイヤーのための市場であるため、一般人は入ることができない。そういったツアーに参加するぐらいしか、この市場は開かれていないのだ。ゆえに気後れしていた三人、いや、ベル。二人はシャルルと一緒ということや、普段行けない場所ということで興奮している。
「どうせならベアも来ればよかったのに」
ここまできたら、五人も六人も同じというシルヴィの意見。明日は花屋が忙しいのはわかるが、〈ソノラ〉とは無関係なはず。万聖節にアレンジメントが使われることはほぼない。
「……まぁ、あいつも色々あるからね」
申し訳なさそうに、リオネルは事情を隠す。誘うことは毎年やっているのだが、決まって断られる。
「……」
いつもは混むランジスへの道だが、深夜となるとかなり空いている。そしてフランス人はかなりスピード狂が多い。本来なら一時間はかかるのだが、予定通り三〇分ほどで到着となる。
窓の外を見ていたレティシアが声を上げた。
「それはいいとして。見えてきたわ」
シャルルには甘いが、ベアトリスには厳しい。どちらかといえばライバルとして認識している。ここに姉がいないのはむしろ僥倖。
まるでショッピングモールのような建物と、巨大な駐車場。まず見えてきたのはプランツなどの資材を売る棟。建物自体はガラス張りになっているため、中がよく見える。すでに大量の肥料などが運び込まれており、忙しそうに人々が動き回っている。
その横を通り抜け、生花の棟へ。屋根付きの駐車場にはトラックや一般車など、午前三時前にも関わらず、多数停まっている。その他、ダンボールなども道の真ん中に転がっており、大雑把なフランス人の性格が滲み出る。生花コーナーには、建物上部にネオンで花のマークが光っている。
「へぇー、こうなってるんだ」
物珍しそうにシルヴィが後部座席で前のめりになる。機会がないので、自身とは無縁だった。あとで友人達に自慢しよう。
リオネルが駐車し、外に出る。気温はひと桁。当然、息が白くなる。
「じゃ、行こうか」
店のスタッフを連れてきているときとはまた違う、まるでキャンプにでも来ているような。ワクワクするし、この子達のいい経験にもなるだろう。
建物入り口には『パビリオン・デ・フルール』、花の棟。自動ドアが開くと、遥か遠くまで多種多様な生花が見渡せる。それぞれ、販売主が個別で売り場を確保しており、きっちりと区画で分けられている。前方だけでなく、左右の売り場でも、すでに販売交渉が始まっていた。




