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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
コン・アニマ
137/319

137話

 これくらいの時期から、スタッフが配達でかなり手を取られるため、〈クレ・ドゥ・パラディ〉は人手不足になる。そこで、配達をやっていない〈ソノラ〉から引っ張ってくればいいのでは? という結論に達した。新しくバイトを募集するよりも、息子の修行にもなって一石二鳥。


「水はもっと少なめでいいよ。多すぎると根本から裂けてきちゃうからね」


「はい、こんなもので」


 リオネルとシャルル、親子というよりは師弟というような会話ではあるが、教える教わるという感じではない。常日頃からリオネルは姉弟に『もっと花と遊べ』と説いている。


 花器には、水は多く入れればいい、というわけではない。適量というものがもちろんある。入れすぎて水に触れる部分が多いと、それだけ茎などがふやける。結果、水の吸い込みが弱くなり、短命となってしまうこともある。


 というのも今回の練習テーマは花器。出された花器に合うアレンジメントを作ること。その花器は、ベルギーのブランド、ヘンリーディーンのガラスベース。底が浅く、淡い青が美しい。飾り気はないがどこか癒される、そんな花器だ。


 その花器を一度離れて見たシャルルは、思考を切り替えた。もっと遊ぶにはどうしたらいい? もっと意味を持たせるには? 青は海の色、そこまでは決めた。ならばどうする? こんな時、ベル先輩なら。


「……!」


 そこでハッと閃いたシャルルは、店の『とある』白いバラを選ぶ。そしてカスミソウ。あとは数点、脇に添える小さな薄い青色のカサブランカ。


「ほぅ……」


 それを見ていたリオネルは、小さく唸る。そうきたか、と。そして、高価だからあまり使わないでほしい、とも。だが、そんなことは些細なこと。出来上がりを楽しみに待つ。


「これも借りますね」


 そうシャルルが拝借したのは、たまたま少し前に使っていたようで、店に余っていた『とある』半個体の液体。それを鍋に移し、店奥のポータブルIHヒーターで熱する。それが一度完全に液体になり、八五度まで下がったら、ベースに流し込む。


「ほれ」


 リオネルは耐熱用のグローブを、シャルルに手渡す。非常に高温となるため、必要不可欠だ。自分がいつも使っているもの。息子へ。


 それを受け取り、シャルルは感謝する。


「ありがとうございます。もう少しで出来上がります」


 少し時間を置いて温度を冷ますと、あとはバランスを見ながら、花をワイヤーで固定して挿すだけ。バラをメインに、カスミソウやカサブランカを散らす。

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