137話
これくらいの時期から、スタッフが配達でかなり手を取られるため、〈クレ・ドゥ・パラディ〉は人手不足になる。そこで、配達をやっていない〈ソノラ〉から引っ張ってくればいいのでは? という結論に達した。新しくバイトを募集するよりも、息子の修行にもなって一石二鳥。
「水はもっと少なめでいいよ。多すぎると根本から裂けてきちゃうからね」
「はい、こんなもので」
リオネルとシャルル、親子というよりは師弟というような会話ではあるが、教える教わるという感じではない。常日頃からリオネルは姉弟に『もっと花と遊べ』と説いている。
花器には、水は多く入れればいい、というわけではない。適量というものがもちろんある。入れすぎて水に触れる部分が多いと、それだけ茎などがふやける。結果、水の吸い込みが弱くなり、短命となってしまうこともある。
というのも今回の練習テーマは花器。出された花器に合うアレンジメントを作ること。その花器は、ベルギーのブランド、ヘンリーディーンのガラスベース。底が浅く、淡い青が美しい。飾り気はないがどこか癒される、そんな花器だ。
その花器を一度離れて見たシャルルは、思考を切り替えた。もっと遊ぶにはどうしたらいい? もっと意味を持たせるには? 青は海の色、そこまでは決めた。ならばどうする? こんな時、ベル先輩なら。
「……!」
そこでハッと閃いたシャルルは、店の『とある』白いバラを選ぶ。そしてカスミソウ。あとは数点、脇に添える小さな薄い青色のカサブランカ。
「ほぅ……」
それを見ていたリオネルは、小さく唸る。そうきたか、と。そして、高価だからあまり使わないでほしい、とも。だが、そんなことは些細なこと。出来上がりを楽しみに待つ。
「これも借りますね」
そうシャルルが拝借したのは、たまたま少し前に使っていたようで、店に余っていた『とある』半個体の液体。それを鍋に移し、店奥のポータブルIHヒーターで熱する。それが一度完全に液体になり、八五度まで下がったら、ベースに流し込む。
「ほれ」
リオネルは耐熱用のグローブを、シャルルに手渡す。非常に高温となるため、必要不可欠だ。自分がいつも使っているもの。息子へ。
それを受け取り、シャルルは感謝する。
「ありがとうございます。もう少しで出来上がります」
少し時間を置いて温度を冷ますと、あとはバランスを見ながら、花をワイヤーで固定して挿すだけ。バラをメインに、カスミソウやカサブランカを散らす。




