135話
一瞬躊躇ったが、サミーは決断する。
「『紅茶』『五年』で思いつくことある?」
聞いてしまった。もし知らなければよかったことだとしても、覚悟はできている。ちなみにネットで検索しても、『賞味期限が五年過ぎた紅茶は飲んで大丈夫か』という疑問に専門家が答えているサイトに行き着いた。これは無関係と見ていいだろう。
その二つの単語を聞いたオーレリアンは、即座に閃いた。
《それなら王室御用達のリスト更新かな》
うん、それだ、とひとり納得。
全く予想していなかった解答に、サミーは首を傾げる。
「なにそれ?」
王室御用達? リスト? 更新?
詳しくオーレリアンは補足する。
《イギリスでは王室御用達に認められた紅茶は、五年ごとに再審査されるんだよ。増えたり減ったり、その度にリストが生まれ変わる》
「生まれ変わる……?」
待て、なにか繋がるかもしれない、とサミーは頭を叩いて刺激を与える。喉元まできている、たぶん。
ついでに思いついたことが、オーレリアンにはもうひとつ。
《五年で生まれ変わるといえば、アメリカのバージニア大学の研究で、人間も亡くなってから、四年半から五年くらいで生まれ変わるっていう説もあったね。次の映画のネタになんかどう?》
冗談混じりでオーレリアンは伺う。電話の向こうでサミーが唖然としていることに気づかずに。
「……」
《サミー?》
なにも反応がないので、電波が悪くなったか? とオーレリアンは一度携帯の画面を確認したが、問題ない。ではなんだ?
そして、もしやと勘繰ったサミーは、へデラベリーの花言葉を調べた。イングリッド・バーグマンばかり気にしていたが、それを支える縁の下の力持ち。頭を抱えて苦笑する。
《サミー? さっきからどうした?》
情緒不安定な友人を、オーレリアンは心配する。映画監督は変人が多いが、やはりコイツもか、と。
だが、全てを悟ったサミーは、彼を褒め称えた。
「オーレリアン、有能」
あとでいいワインを送ってやろう。
よくわからないが、オーレリアンも褒められて悪い気はしない。気持ち悪いといえば悪いが。
《え、あぁ、そいつはどーも》
とりあえず受け取っておく。喜んでくれたなら幸い。
今、全部が繋がった。そして映画監督というスイッチを再度オンにする。現在制作しているのは、フランス文学を題材にした作品。元の作品も人気が高いだけに、失敗したら監督としての地位が危ない。だが、サミーは大胆に味付けする。
「追加したいんだが」
思いついちゃったものは仕方ない。やれることは全部やる。興行収入など知らない。そもそも、そんなもののために映画監督になったわけじゃない。
《なに? あんまいじると原作ファンから袋叩きにあうぞ》
一応、オーレリアンは注意する。しかしこうなったら聞かないのは知っている。あくまで一応。
ニヤリ、と笑ってサミーは提案した。
「お節介な花屋の女とか、作品に盛り込めるか?」
へデラベリー、花言葉。『死んでも離れない』。こっちのセリフだって。




