124話
夜。シルヴィも帰宅、というより無理やり帰し、軽く食事を済ませ、あとは寝るだけ。だが、姉はまだ店のイスに座り、天井を見ながら何かを考え込む。力が抜け、寝ているかのようにも見える。
そこへ、階段を降りてきたシャルルが声をかけた。
「どうしたの?」
その要領を得ない問いかけに、ベアトリスはムッとする。
「なにがだ?」
やっぱり、とシャルルはひとり納得。
「機嫌よさそう」
なにがあったのかは知らないけど。悪いよりはいいに越したことはない。そのまま店奥のキッチンへ。
「とりあえず紅茶でいい? コーヒー?」
姉の機嫌がいいと自分もいい。なにかイタズラを仕掛けられないし。お湯を沸かし、紅茶を淹れようとカップを取り出して、気づく。
「ティーカップ新しくしようか。少し痛んできてるし——」
「シャルル」
ベアトリスが弟の名前を呼び、今度は行儀悪くイスに足を乗っける。サンダルを脱ぎ、裸足。寒くはないのだろうか。
「紅茶といえばイギリスだな」
もしくは、ドイツ北部のフリースラント。ひとり当たりの消費量世界一。キャンティを入れるとさらに美味しい、というのは今はどうでもいい。
よくわからない話の流れになると、だいたい悪いことの前兆。シャルルは少し不気味に感じる。
「まぁそうだけど……どうしたの?」
と、質問したところで、意を決したベアトリスがガバッと立ち上がり、部屋全体を見回す。
「ふむ……」
これで全てのピースは埋まった。だが、その絵が正しいのかは知らない。正しいかどうかは、彼に無理やり感じ取ってもらうしかない。
「フローリストはおせっかいな奴しかなれんな」
花の声が、聞こえる。




