123話
「……なぜラテアートまでやろうとしている」
自分よりこの店の機械に詳しいシルヴィに、ベアトリスの眉間の皺が寄る。
「だから言ってんじゃん、練習させてもらってるからさ」
そうこうしているうちに、シルヴィがチューリップのラテアートを完成。花屋だし。
うまくいって上機嫌のシルヴィと対照的に、完全に不機嫌が臨界点を突破したベアトリスは、それを奪ってズズっと飲む。
「あ」
上唇に付着したミルクを舌で舐め取ったベアトリスは、喉元を過ぎる滑らかな感触に満悦する。
「美味い。さすがウチのマシンだ」
貰いものだけど。
目の前で自信作を奪われたシルヴィは、ベアトリスの前に仁王立ちする。身長差は二〇センチ以上。完全に見下ろす形だ。
「ケチ」
唇を尖らせて、不満を表現する。せっかくいい感じにアートできたのに。
絵柄など気にせずベアトリスは飲み干した。
「私のカップだ」
そしてコトッ、と横のシンクに置く。飲み終わったので洗うために。
その時、ふと、なにかが閃く。
「……?」
漠然としているが、なにかの糸口になりそうな。そんな予感がする。
「だからな、今日来たのは暇だからであって——ん?」
全く話を聞いていないベアトリスに、シルヴィは疑問を持つ。
「……?」
深く、潜るようにベアトリスは深層世界へ。今は誰の声も届かない。花と自分だけの空間。
(ラテアート……カップ……)
なにか、ある。ここにヒントが。最後のピースとなりそうな、そんななにかが。




