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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
コン・アニマ
119/319

119話

 そのたおやかな指の流れを、食い入るようにサミーは見つめる。


「なんというかこう、気を悪くしたらすまない、もっとアレンジメントっていうと、色鮮やかなものを想像していたんだが、随分と緑が多いような気がするね」


 ピンクやイエロー、赤などのビビッドな色が多い花。それらが頭にあったため、今現在アレンジメントしているものに、偏りがある気がしていた。


 だが、それはベアトリスにとって狙い通り。


「よく気づきましたね」


 使った花の種類は一〇種類ほど。だが、ネリネやパンジーなど、色鮮やかなものは四種類ほど。その他は花というよりは草木のようなものが大半を占めている。それらの茎をハサミで切り分けつつ、ベアトリスは螺旋状に束ねていく。こうすることで崩れにくくなるだけでなく、のちの調整もしやすくなるのだ。


「シャンペトルと呼ばれる作り方です。どちらかというとブーケにすることが多いですね。田舎風、ということもあり、竹籠やもしくはシンプルなグラスなんかに入れるのがいいかと」


 フランスのフラワーデザイナー界の巨匠、クリスチャン・トルチュが編み出した、それまでとは真逆をいく手法。本来アレンジメントの際に葉はできるだけ刈り取り、鮮やかな色彩で作るのが是とされてきた。


 シャンペトルは葉を多く残し、さらに草木や豆の実など、まるでそのまま摘んできたかのような雰囲気を作りだす技法である。

 

「余計なものを削ぎ落として削ぎ落として、一周回ってこういったものが人気になる。わからないものですね」


 高低差をつけ、バランスよくまとめていき、茎を切り揃え水の入ったガラスの小瓶に入れる。自然かつ野生味があるのだが、不思議と雑味を感じない。どうぞ、とベアトリスは差し出す。


 ふむ、と引いて全体のバランスを、サミーは一度確認する。


「たしかにね。日本のボードゲームである『将棋』も、一度廃れた戦法が新たな戦法に対して有利だったりと、グルグル回っていると聞いたことがあるね。頭を柔らかくしないとだ。美しいね」


 違う角度から見てみると、今度はまた新しい顔を、花は見せてくれる。主役が変わった、と発見がある。


 そのアレンジメントからなにかを学ぼうとしているのか、紙とペンを渡せばなにかメモ書きしそうなサミーに、作者のベアトリスが詳しく、花の世界を広げる。


「花は、花だけでは、それはただの野草ですから。フラワーアレンジメントであれば花器、花束であればテープやワイヤーなども使います。組み合わせは無限です」


 まだ見たことのない花。名前のない、花言葉もない花は、世界にたくさんある。終わりがない。

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