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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
コン・アニマ
118/319

118話

 そうかもね、と苦笑するサミーではあるが、それより本題に移ることにした。


「それで、思い当たる花はあるのかい?」


「……そうですね」


 投げかけられたベアトリスは、手の甲を唇に当て、瞬きも忘れて脳をフル回転させた。あらかた決まってはいる、だがピースがひとつ足りない。


「……」


 無言でもう一度ベアトリスは手紙を手に取り、凝視する。サミー。監督の名前。


「これ以外にも封筒とか、なにか一緒に渡されたものなどはありますか?」


 少しでも想いに近づけるものは。もしかしたら、監督が気づいていないだけで、なにかあるのかもしれない。


「いや、これだけなんだ。俺も聞いたり探してみたけど、見つからなかった。そもそもが、これも投函されたものとかではなく、直接手渡されたらしい。その配達員の良心で五年後、届いたわけだ。シワなどがつかないよう、丁寧に保管してくれていたみたいだし」


 否定しつつ、もう一度考え直してみたサミーだが、やはりなにも。見落とすもなにも、これしかない。


 なにかヒントはないだろうか。


 おそらく万年筆の太さと滑らかさは、エルメスのノーチラス。


 字のはらい方や擦れから見て左利きか。


 紙はやはりヴェルジェ・ド・フランス。


 滲み具合から見て、少し柔らかいものを下にひいていた?


 なぜリオネルに話を持ちかけた?


 書かれた当時の紙の保存状態はどうだった?


 監督ということになにか関連がある?


 ……ふぅ、とベアトリスが一息つく。


「別れや過去の思い出を表現するのであれば、ネリネやスイートピーなんかがありますが……あまりに普通すぎますね。監督の奥様の伝えたいメッセージではない気がします」


 そして、それ以上に気になるのが、どうして今頃? ということ。なにかその年月も意味がある?


 諦め、とは違うが、サミーは大きく感情を揺さぶられたりはしない。それだけの時間はあったから。


「しかし、もう正解はわからないからね。親身になって考えてくれるだけでも嬉しいよ」


 そう口にしつつも、手紙を握りしめるサミーの目。


 それがベアトリスには、どこか寂しげな色に見えた。燃えるような炎の朱でも、冷静さを表現する青でもない。考えることは大事。だが、その考えをまとめるために行動することもまた、大事となる。


「少し作ってみましょうか」


 静かにイスから立ち上がったベアトリスは、傍にある、水揚げされて容器に入れられた、別名ダイヤモンドリリーとも呼ばれるネリネを手にした。その他、グリーンミストや、キーパーに入れられていたハーブゼラニウムなども手際よく合わせていく。


 この店にはフラワーキーパーと呼ばれる、温度が一五度前後で保つことのできる、花用の冷蔵庫が存在する。フランスにはほぼないものだが、特別に仕入れたものだ。そもそもはフランスは気温も湿度も低いため、あまり必要とはしないのだが、せっかくなので入れてみた。人の金だし。

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