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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
コン・アニマ
117/319

117話

 こっちから言っていいのか迷っていると、ベアトリスのほうから肯定。

 

「娘です。あまり一緒に生活した記憶はありませんが」


 静かにコーヒーを口にしたベアトリスは、数秒、目を閉じた。父親、ねぇ。


 どことなくそれ以上触れないほうがいいと察したサミーは、もう一度笑顔を作り、ここに来た目的に戻る。


「気を悪くしないでほしい、すまないね。それで手紙に話を戻そうか」


 どこに地雷が潜んでいるかわからない。慎重に歩を進めるより、撤退して再度作戦を練る。


 その心遣いに感謝しつつ、ベアトリスは内外共に平常心に戻る。


「お気になさらず。友好な関係は築いていますから」


 そうは思えなかったが、という言葉は胸にしまい、サミーは思考を完全に切り替える。監督業でも切替は大事だ。


「気になるのは、なぜ手紙を花で、というのと、リオネルはきみを推薦してきたのかな」


 手紙の意味がわかる人がいるなら、ストレートに教えてほしい。いや、いないだろうけど。


 それに対して、自分なりの理論をもつベアトリス。


「花は、見えないものを伝える役割もありますから。無言の方が伝わることもあります。映画にもありますよね、無言のカットを撮るシーンなど」


 外の喧騒が、ほんの少しだけ聞こえる。


 そこでサミーは合点がいった。空気感を演出するために無言の、無音のシーンは存在する。


「たしかにね。何を撮るか、あえて撮るか、撮らないか。イーストウッドなんかがそのあたりは素晴らしい。『ペイルライダー』のラストなんか圧巻だったよ、ってまた脱線してしまったね」


 出されたままになっていたコーヒーを味わいつつ、サミーはひとつの考えが浮かんできた。


「死者からの手紙……次の作品に使えるかも。いやいや、なに言ってんだ俺」


 どんな時も、映画と結びつけてしまう。頭を振って否定するが、ベアトリスは笑みを浮かべて同調した。


「それがある意味供養になるかもしれませんね」


 楽しみにしてます、とベアトリスはコーヒーを口にした。テーブルに置かれた黄色のゼラニウムのアレンジメント。その花言葉は『予期せぬ出会い』。こういうことなのかもな、とひとり考えた。


「妻に悪いと思う反面、職業病なんだろうね。諦めている」


 そんなところを、妻は好きになってくれたのか。生前、聞いておけばよかった、と軽くサミーは後悔する。


 吹っ切れている、というのは本当なのかも。前向きな雰囲気を感じ取り、ベアトリスは私見を述べた。


「もし次の作品のテーマになっても、奥様も後ろからフライパンで殴るほど怒りはしないと思いますよ」

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