表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
コン・アニマ
116/319

116話

「ですが、なぜこれを私のところに?」


 もちろん、映画をさほど観ないベアトリスも名前は知っている。が、これほどのビッグネームが来店するのはなにかある。鋭い彼女の勘が怪しさを告げた。


 サミーはくったくなく笑い、顔をベアトリスに近づけつつ囁いた。


「リオネルからの紹介でね。面白い花屋があると聞いたんだ。探偵のようだと」


「あー……そういうこと」


 あいつめ、とサミーに見えないように一瞬、苦虫を噛み潰したかのような顔を浮かべるが、すぐに気を取り直し、控えめな笑顔をベアトリスは浮かべた。


「残念ながら探偵ではないので、監督の求めるものにたどり着けるかわかりません」


 期待させすぎてもよくない。そもそもここは花屋だ。手紙の意味など、占い師にでも聞いてほしい。


「かまわないよ」


 亡くなった妻、と悲壮な内容にもかかわらず、サミーは晴れ晴れとしていた。そんな気を張らないで、とベアトリスのフォローも入れる。


「もう亡くなってしばらく経つからね。当初は私も酒に溺れるようなこともあったが、今ではこの通りさ。落ち込んでばかりいると、彼女に後ろからフライパンで殴られてしまうからね」


「……すごい奥様ですね……」


 と、笑顔を見せるサミーとは対照的に、ベアトリスは少しひくついた。だが、彼からは嘘偽りはないように見え、少し安堵する。なにか試している、というわけでもなさそうだ。


 サミーは視線をベアトリスから外し、店内のアレンジメントを見ながら、懐かしむような笑みを浮かべる。


「今でも妻のことは愛しているよ。正直この手紙はどうすべきか迷ったんだがね。これしか書いてない以上、調べようもないし、答えなんて本当は必要ないのかもしれない」


 どうするべきなんだろうね、とベアトリスに笑いかける。しかし、その手は微細に震えているようだった。そんな自分に気付いたのか、話題を変えた。


「この手紙の話を撮影現場で話したら、ちょうど来ていたリオネルから、そういうの得意な人物がいると聞いてね。こんなお若いお嬢さんだとは思わなかったが」


 少しだけイスに寄りかかった。一旦落ち着こう、という意味なのか、視野を広く取ってみる。


 心の内では葛藤するベアトリスだが、そんなことはおくびにも出さず、仕事は仕事と割り切る。


「そうだったんですね、まぁあの人は色んなところで手広くやってますから。三つ星レストランやら、シャネルやら」


 すごいですよね、と心にも思っていないことを口が勝手に。


 だが、その行動と心理のバランスのズレを見切ったサミー。人心の掌握は監督の役割。


「……キミはもしかして彼の……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ