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Sonora 【ソノラ】  作者: じゅん
コン・アニマ
110/319

110話

「ピアノだってコンサートとコンクールで違うだろう。リサイタルもまた。それぞれ得意分野が違う」


 ベアトリスの出した比較対象を改めてベルは吟味した。


 自身のやりたいようにできるリサイタルと、課題曲が決められ、しっかりと曲の理解を深め、なおかつ自分の色を出し、ミスなく演奏することを求められるコンクール、そして様々な楽器を用いるコンサート。全く別物なのだ。


 二○世紀最高のピアニストの一人であるグレン・グールドも、もしショパンコンクールに出場していたら、その異端さを発揮して、二次審査あたりで落ちていたとまで言われるほどだ。


「店に来店されたお客がなにを求めているか、それを見極め、花を通して伝えるのが我々だ」


 つまりベアトリスの言いたいことは『目に見えないものを見ることが大事である』ということ。ピアノでも共通することであるとベルは思い起こした。クラシックにおいて、作曲者の意図を掴むことはとても重要なことである。なぜここはフォルテなのかなど、考え出したらキリがないが、必ず意味があるのだ。


「あくまで主役は花、我々にできることなんて少ない」


 諦めたようにベアトリスは、今日のレッスンを終わりにする。そもそも花は、教えてどうにかなるようなものではない。バラの花束より、一輪のタンポポが喜ばれることもある。教えることができるのは、心構え程度だ。


「そう……ですかね」


 なんとなくわかる。だが、ベルはなんとなく腑にも落ちない。


 くぐもったベルの声の質と音量から、ベアトリスは察知する。


「あんまりわかってなさそうだな」


 してはいないが、ため息を吐いていそうな物言い。だが、それも仕方のないこと。花のことなど、自身ですら数パーセントしか理解できていないことは、重々承知している。


「言葉ではわかるんですけどね……」


 やはり楽譜から読み取るのと、生きた人から読み取るのとでは勝手が違うため、ベルは生返事しかできずにいた。


 頭に疑問符が見えてきそうなベルを見かね、ベアトリスが口を開く。そのままほっといてもいいのだが、きまぐれに助け舟も出す。なんだかんだで面倒見はいいのかもしれない。


「ひとつ、例をあげよう。花ではないが」


 やれやれ、と聞こえてきそうな嘆息をしつつ、続けた。


 キョトンとしてベルは目を見開いた。いつもなぞなぞを出すだけ出して答えを言わない人なだけに、なにか裏があるのではないかと怪しむが、とりあえずタダだし、と打算的に耳を傾ける。

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