103話
「一二月なんだ、あたしなんか一月だから、案外近かったんだね。なんかロマンチックでいいな、ノエルが誕生日なんて」
「でもプレゼントを一緒くたにされますよ。それに姉さんは毎年使い道のないようなものをくれますから。一昨年なんかサンタの衣装をくれたり」
プレゼントをくれるという気持ちは素直にありがたいと思うし嬉しい。それがなんであれ、である。が、去年・一昨年・その前のことをシャルルは思い出す。あれは完全に姉は遊んでいたと。実用性のあるものを所望しても、姉は耳を閉ざしているらしい。
「でも、ちょっと可愛いかも……」
「なにがですか?」
「ううん、こっちの話。でもケーキとか食べたりして、一緒に過ごしたんだ。今年もあと二ヶ月後だね。来月からは準備で忙しくなりそう」
「ケーキとか、料理は全部僕が作りましたけどね。姉さんは飾りつけ担当と言い張って、ずっとアレンジとかしてましたよ。たぶん、今年もそうなるのではないかと」
やっていることが結局二人とも普段と変わらないため、あまり特別という気概はない。量が増える、種類が変わる、という程度である。家族で過ごすのが大半を占めるノエル。それは数年続き、いつしかノエルが特別だとは思わなくなった。いつも二人だったから。しかしそれが嫌なものだとは思わない。姉さんだから。
「そう、なんだ」
夜空を微笑みながらも寂しそうに見上げるベルは、数瞬置いて「もしよかったら……」と切り出す。
「今年はあたしの家で一緒に祝わったりとか、ダメかな? ママもパパも絶対承諾してくれると思うんだけど、ね?」
差し伸べられるベルの手。まだ二ヶ月以上もあり、先のことはわからない。
そもそも家族で祝うのが本分なイベントであり、シャルルは正直に言えばその輪に加わることに気が引けた。もちろん家族だけでなく友人も呼ぶところも多くある。しかし二人でしか祝ったことのないシャルルには、その手は暖かすぎる気がした。
その思いが胸に馳せ、一度出した手をシャルルは引っ込める。が、その半端に出してしまった手は、ぐいとベルに捕まれ離れない。肯定するまで、いや、肯定しても離さないのではと思う程に。その強引さにたじろぐが、同時に嬉しくもある。
「……はい、是非」
今が夜でよかったとシャルルは感謝する。赤く染まった顔色を見られずにすむから。
「そうなると、先輩の家じゃなくて〈ソノラ〉でやりましょう。全員が元とはいえフローリストですから、飾りつけとかすごくなりそうですし。花もたくさん用意しておきますね」
うんうん、と何度もシャルルは頷いて、初めての大所帯に心が躍っているのが目に見えてわかるようだった。そうなるといつもと違う料理にも挑戦しよう、と。
「全員? ママはわかるとして……パパ?」
ただの一会社員であるはずの自分の父。もちろんそんなことは聞いたこともないし、素振りすら見せない。思い返してもそんな気はまったくしない。目を丸めてベルはシャルルを見下ろした。




