102話
通りに面する店のほとんどが閉店時間を迎えシャッターを締め出す。七時半ともなれば、国によっては早いと思われるかもしれないが、家族との時間をなによりも大切にするのもお国柄であり、大都市といえども夜と分類する。お客もまばらになってくるのだ。
アベニューもそれは例外ではない。二四時間営業の店はほとんどない。そのため道行く人々はほぼ帰宅者となり、この時間帯は地下鉄も今頃が最も混む。すぐ降りるとはいえ〈ソノラ〉を出ようとするベルはそれを思うと顔が渋る。
それを見やり、シャルルは一つ勘違いをした。
「すみません先輩……」
「ん? どうしたの?」
「姉さんも行くことになって、先輩さっき溜め息をついていたので、もしかしたら姉さんのこと苦手なのかな、って」
「?」
いきなり弱気を見せだすシャルルを、眉をひそめてベルは見返した。
「そう……ですよね、初めてお会いしたときズケズケと踏み込んだりしてましたし……でも、口は悪いですけど、本当はその、上手く言えないんですけど……」
そこでようやく自分の表情にベルは気付く。今にも泣き出しそうに謝するシャルルを真実を話した。
「あ、違うよ。なんか今、地下鉄どうなってるのかなって思っただけ。それにしてもシャルル君はお姉さんのこと大好きなんだね。うん、大丈夫、知ってるよ。ベアトリスさんは色々なところで粗野だけど、でもすごく優しいってこと。あたしもベアトリスさん大好きだよ」
そうベルが言うと、ぱっと明るく咲く花のように喜怒哀楽の喜へとシャルルは転換し、声を高くした。
「あの、ありがとうございます。誤解されやすいタイプだと思うんですけど、それを本人も直そうとしないので、でもそう言っていただけて僕も嬉しいです」
「でも、そう考えるとシャルル君とベアトリスさんて、姉弟なのに性格は似てないよね。シャルル君は少し丁寧すぎ」
「そうですか?」
シャルルは語尾を上げた。そしてそのままはにかむ。
「こうして喋らないと、なんか落ち着かないんです。姉さんもお客様相手だとちゃんと応対するんですけどね。その切り替えが僕にはちょっと」
「もしかして、同級生にもその口調なの?」
十分にありえると思い、ベルは身をのけぞった。
「はい、確かによく『なんかシャルル君は同い年って感じがしない。年上っぽい。ちっちゃいのにね』って言われます。『小さい』は余計です! ノエルになれば、人によっては僕の方が年上になるのに」
不服です、とシャルルは唇を尖らせた。
年末年始は街の広場などでイベントなどが他国と比べても盛大に催される。特にノエルは一年を通しても最大の行事と言ってもいい。
その時期は嫌なことをすべてを忘れて家族や友人と過ごす大切なものとなる。なので、覚えてもらいやすいのはシャルルにとっては好都合と言えなくもない。




