101話
その自分の容赦を入れたつもりのない考察を好意的に受け取られ、ベアトリスは「九対一にしておくべきだったか」とこぼすが、もしそうだったとしてもコンマ五で勝ってベルは同じ行動をしていたことは誰も知らない。
「では、明後日は昨日行けなかった雑貨屋さんでも回って、バスケットや籠から連想できるアレンジの練習でもしませんか? お金もかからないし、すごく勉強にもなるんですよ」
「うん!」
鉄は熱いうちに打て、と言わんばかりにシャルルが経済的な提案に出る。それを当然のようにベルも快く受諾した。色々と楽しみでワクワクする。が、
「ちょっと待て、なぜそのようなことをお前らが楽しまねばならん。その間、私は一人ここで留守番か」
自分を置いてなにやら楽しそうに話を進める二人に違和感を覚え、それは店を持つ者としては許可しかねる行為である。自分の気分がいい時ならいざしらず、現在のベアトリスは待ったをかける。自分が置いてけぼりにされるのには我慢ならないのは見たままである。
「あ……ですよね……すみません。シャルル君、秋休みももうすぐだしまた今度――」
お店が休みの時にでも、とベルが言いかけると、驚愕の一言が割り込んだ。
「私も行く、待ち合わせ場所は学園前でいいな。終わったらさっさと来い」
「……はい?」
「姉……さん?」
両者共に、予想を斜め行く事態に揃って耳を疑った。
「だから、木曜は店は午前だけ開いて午後は休みだ。ドアに張り紙でも張っておけばなんとかなる。夏のバカンスの時など、そうして他の店も勝手に休むだろ」
もっともらしいことを言っているのだが、そうする理由が見つからない。その通りでバカンス休暇なるものも存在するほどのフランスにおいて、休むという行為は一種のどうにもならない国民の習慣である。特に夏場は店は週間、月間単位で休みが続く。たまに一日休みがあったとしても、それほど気になるものでもない。その気骨をしっかりとベアトリスは受け継いでいたのだ。
「そう……だけど」
「そもそもお前ら二人だけで行かせるなど、私としても落ち着かんしな。それに教官が二人いたほうがお前も練習になるだろう。なんなら明日休みにしてもいいぞ。学校も明日は一日休みだろうからな」
ベアトリスの本音を言ってしまえば『シャルルとベルを二人きりにさせない』というのが根底にあるため、そのためならば手駒は自由に操るベアトリスである。自分のさじ加減でどうにでもなることをアピールしつつ、さらに発破を掛ける。
「さすがに……それはどうかと思いますけど」
「なら明後日でいいだろう。なんだその顔は。なにか問題でもあるのか?」
にんまりとするベアトリスのその悪い笑顔が「お前の思うようにはさせんさ」と語っているようで、飲み込まれたベルは肩を落とした。
「ない、ですけど……はぁ……」




