家族
1話の文字数が少ないので2話更新です
<遺跡の森・遺跡前>
"広場"にもどって、荷物の中から小さな鍋を取り出す。それを持って、遺跡の裏に回りこむ。裏手の湧泉で水を汲むためだ。帰りがけに枯れ枝を拾って歩く。
水を汲んで荷物のところに戻ると、枯れ枝を使って火を起こし、茶を淹れる。ここいらの名産品、ハキル茶の爽やかな香りを楽しみながら、ぼーっと遺跡を眺めるうちに意識は5年前に飛んだ。
――5年前に地元を離れて、このピーウの町に来た。
15になった時、これからは自分で稼いで生きていけと家を追い出された。予告くらいしとけってんだ。地元じゃあ職なんかない。ごくごく小さい里でみんな畑を耕して自給自足している。たまに里を訪れる商人と物々交換で生活雑貨を手に入れる以外、商取引なんて行われないようなところだ。猟をするにしても害獣駆除か自家消費分を穫るくらいで余計に獲ったからといって売れるわけじゃない。
家の畑は兄貴が継ぐし、そもそもうちの畑じゃ養える人数は限られる。下の弟たちもまだ小さかったし。要は口減らしだ。食い扶持のことも考えずに子供をポコポコ作った責任てのも追求したい気持ちもあったが、腹が立ったんで、さっさと里を出てきた。何より邪魔者と思われていたようなのが我慢できなかった。もう帰ることもないだろう。
今頃、弟たちも追い出されているのだろうか。そうならざまぁみろだ。あいつら俺が追い出されるのを笑いながら見てやがったからな。
小さい頃から山に入る度に収集していた藤水晶を近くの町で売り飛ばしたが大した金額にはならなかったが、路銀の足しにはなった。野宿を繰り返して少ない金をやりくりしたが、ピーウまで来たところで限界が近づいた。ピーウに留まるにせよ先を目指すにせよ一度ここで金を稼がないと始まらない。
始まらないのだが、ピーウは小さい町だ。早々都合よく日雇い仕事なんてない。どうしたもんかなと悩みながら広場でボーッとしていたら声をかけられた。旅行者かと聞くので、そんな良いものではないとこれまでの経緯を話した。「それはちょうど良かった」などと抜かしやがるので殴ろうかと思ったがどう見ても相手の方がガタイがいいので我慢した。
男はピーウに定住して猟師にならないかという。一人前になるまで贅沢はできないが寝泊まりできる場所は用意する。当面は銃も組合から貸し出すし、最低限のノウハウを身につけるまでは先輩猟師がついて指導するという好条件だ。なんともうまい話なので実は人買いかなんかなんじゃないかと疑ったが、向こうにも事情があるとのこと。地元の若者は仕事につくような年頃になると多くは町を出てしまい猟師のなり手が少なく、魔物の駆除にも充分に手が回らない。流れ者に定住を促して人手を確保したいらしい。
男はジョシュと名乗った。
で、猟師になった。金もあてもなかったし、人間関係が苦手な俺には選択肢なんてあるようでなかったというのが実情だ。猟師なら一人前になれば獲物の売買以外は人と関わらずに山にこもっても生きていける。そんな計算もあった。実際、今はそのとおりの生活をしている。
今は町から少し離れた岩山の麓近くに小屋を借りて一人で住んでいる。