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師弟

<数日前・シゴーニュ食堂>

 前日に川で釣った魚を焼いて簡単な昼食をとった後、小屋の中を簡単に掃除してから当面の保存食や雑貨類の買い出しのため外出。猟に行くわけではないので猟銃は持たず軽装だ。俺の暮らす小屋は山に近い川辺にあって、町からは30分ほど歩く。町中に部屋を借りても良かったのだけど、やはり近くに他の人が住んでいないほうがわずらわしさがなくて快適に過ごせる。人間関係が苦手な俺としては重要なポイントだ。

 町で当面の食料を調達。生存報告に猟師組合に顔を出したあと、夕飯を取るため、組合の建物から数件先の食堂へ出向いた。まだ夕食には少し早い時間帯なので客の入りは程々といったところ。入りながら、店の亭主に料理を注文して、さて席はどこにしようかと見回したところで声がかかった。

「おう、アーロン」

 我が師ともいえる先輩猟師のジョシュだった。まだ夕方だと言うのに既に酒が入っているようだ。図体がでかいから酔いの周りが遅いのか普段から大変大酒飲みだ。

「最近チーム猟にも出てこないが、どうした? 個人でなにか依頼を受けているのか?」

「いや、受けてないよ。というか、たいした活動をしていないな」

 そのあたりの事情はあまり話したくはないが、曲がりなりにも師匠なので無下にも出来ない。

「なんだ、どっか体の調子でもおかしいのか?」

 そういいながら、グラスの酒を飲み干す。

「そうじゃないよ。体はいたって元気だよ。そうじゃなくて、なんというか……」

「悩み事か? 実家でなんかあったか」

「うーん、悩み事というのとは少し違うんだけど」

 ジョシュの前に腰掛けながら答える。


 自分の料理が届いたところで、話を始める。

「この前、オーランドと話していてさ。あいつが猟師になった理由は知ってる?」

「いや、聞いたことねえな」

 顎髭をいじりながらジョシュが答える。そもそもそんなことには興味なさそうな感じを受ける。そもそもが人の事情を詮索するタイプではない。俺のことを聞いてくるのはやはり師匠としての責任感のようなものがあるのだろう。

「あいつは5つ下の妹を学校にやるために猟師になったんだ。実家の畑を手伝っているだけじゃとてもじゃないが学費なんて捻出できないからね」

「まあ、小さな町だからなぁ。働き口も限られるしな」

 そういいながら、グラスの酒を飲み干す。

「このあたりで少しでも稼ごうと思ったら猟師くらいしか手段がないからね。職人のところに弟子入りして一人前になればちょっとはちがうけど、稼げるようになるまではむしろ収入は少ないし」

「あとは出稼ぎかな。仕事さえ選べばそれなりに稼げるしな」

「でも、母親の体調に不安があるからあいつの性格からいって長期間町を離れる選択はできなかったろう」

「そう考えると、猟師ってえのはいい選択だな。割と融通は効くし、頑張ればそれだけ稼げるからな。で、それがどうかしたか?」

「うん、あいつはそういう明確な目的があって猟師を選んだ。将来的には家を継ぐか商売を始めるかなんだろうけど。それに対して、俺は何も考えないで猟師になったなと思って」

「なんだ、猟師が嫌になったのか」

 酒のつまみのナッツを口に放り込みながら聞いてくる。

「そうじゃないよ。幸いにして猟師として一本立ちできているし、結構性に合っていると思っている。

 15で家を追い出されて、手っ取り早く一本立ちできそうってだけで猟師になった。他にあてもなかったしな。特に目的意識をもって選んだわけじゃない。それどころか、将来どうなりたいとか、何がしたいとか考えたことはなかったなぁと気がついたんだ」

「何だそんなこと、俺だって特にないぞ。できそうなことがこれくらいだっただけだ」

「でも、考えなかったわけじゃないだろ。俺は食うに困っていたときに目の前に猟師という選択肢を提示されて飛びついただけだ。ま、その事自体は感謝しているけど」

「まあな。俺は学がないから役人とかは問題外だし、金勘定なんてとてもじゃないが無理だから商売人もなし。大体、頭を使うのが苦手だからな。鍛冶なんかの職人も考えたが、あれも仕入れだ経営だって結局頭使うんだよな。実家の畑耕すか、猟師くらいしか思いつかなかった。そういう意味じゃお前と大差ないぞ」

 そういいながら、グラスの酒を飲み干す。

「ところで念のため言っておくけど、畑も頭使わなくていいわけじゃないけどね」

「あげ足をとるなよ。実家がやってるからやることがわかってるって意味だ」

「それは置いといて、でも、"考えた"のは確かだ。俺も一度"考える"ということが必要というか、考えたこともなしにこのままいくのは不味い気がしたんだ。その結果として、結論が"なにもなかった"でもいい。"考えた"という事実が大事なんじゃないかって」

「うーん、よくわからんなぁ」

 話に飽きてきたのか、少し投げやりな反応だな。適当に切り上げるか。

「要は、自分が納得できればいいんだ」

 スープをスプーンでかき回しながら答える。

「そんなもんかねぇ」

 ジョシュが酒を口に含みながら呟いた。


「とりあえずお前の状況は、一応理解した。で、具体的には当面どうやって生活していく気だ? 多少の蓄えがあるにしても、全く働かないってわけにも行かないだろう。正直、そんな気持ちで猟に出るのは進めないぞ。そんなんじゃ、仲間を危険に晒すぞ」

「それはわかっている。家で考え事してても気が滅入ってくるし、当面は"遺跡の森"で自分の食う分だけとって、あとはあそこでぼーっとしてみようと思う」

「あー、"初心者の森"か。まあ、あそこなら考え事にはいいかもな。何も危険はないだろうが森に入るときは一応組合の方には声をかけておけよ。」

 そういいながら、グラスの酒を飲み干す。

「わかってるよ」


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