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龍の棲む星  作者: 青丹柳
銀湾
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――― うろうろうろ


 独特な装飾が施された荘厳な神殿。辺りはしんと静まり返り、中の様子は伺えない。


 先ほどから同じ場所を行ったり来たり。

 これ以上ここに留まれば不審に思われるということはわかっているが、次に打つべき策が思いつかなかった。


(な~んでウルズ様は出勤してこないんだよ~)


 ここ数日全く見かけておらず、仕事の指示も上席経由でぱらぱらと雑用が回って来るのみ。真面目なオセラは愚直に回ってきた仕事の全てをこなしているようだが、こちらは大事な任務を抱える身だ。早くウルズに同行して情報を集めなければならないのだ。


 これまでオセラと二人、ウルズから目を掛けてもらい様々な仕事に同行してきた。人間から宣戦布告された最初の戦い、戦局を決定づけた最大の戦いにおいて、光栄なことに長と同じ艦のクルーとして選抜されていたのだから上司や同僚からの信頼も厚いと自負している。


 でもそれは狭い世界での話、井の中の蛙だった。


『本日黄からご訪問の予定は伺っておりません』

『ウルズ様のお遣いなんです!知ってるでしょ~?僕、側近です!いや~急に頼まれちゃって困っちゃ・・・』

『伺っておりませんので通せません』


 応対した門番の冷たい事と言ったら。最後まで言う前に遮られた。決して彼と面識がないわけではないのだが。すげなく追い払う彼の前では自慢のコミュニケーション能力も役には立たなかった。

 いつもだったらウルズの顔を見ただけで、急な訪問にも対応してくれていたのに。

 それは一色の長が持つ権力によるもので、横に居ただけの自分には何の力もなかったのだと改めて認識して途方に暮れた。


(女神様はお元気なのかな~・・・)


――― ブルルルルッ


 左腕に巻いた簡素な金属の腕輪が微かに振動している。中央に開いた小さな穴から黄色の光が漏れており、メッセージが届いたことを知らせているのだ。腕輪型の携帯型通信機から漏れるその光に手をかざすと生体認証が行われ、眼前に文字列が表示される。

 ボイスメッセージを要約し文字に起こしたそれは、待ちに待った上司からの連絡で。


「やった!何々?え~っと・・・えぇっ!?!?」




*




 壁から天井、床に至るまで、全ての色を飲み込む黒で統一された宮殿。

 その中央に位置する執務室に集まった3人が、たった今地球政府から届いた電文を見て顔を見合わせた。

 内容が内容だけに、また主の逆鱗に触れたのではないかと危惧したが、意外にも主の反応は淡泊だったのが逆に心配だ。


「我々に揺さ振りをかけているつもりか!」

「落ち着いてください。何故捕虜との面会が揺さ振りになるというのです」


(む、確かに)


 人間は捕虜をぞんざいに扱っていたが、こちらでは違う。我々には戦士としての矜持があるし、それに―――隣に立つこの星の最高権力者が最も心を砕いている存在だ。

 しかしそれを知るのは政の中心にいる各色の長と彼女の周囲にいる者くらいか。いくら人間側に捕虜の情報が洩れているとは言っても、内容は捕虜自身の行動や健康状態についてであり、周囲にとってどのような存在であるかという情報は含まれていなかった。彼女を取り巻く周囲について把握できていない人間が、捕虜を使って揺さ振ろうとは考えないだろう。


 だとすると、何を目的に?


「情報漏洩の件に片を付ける良い機会と捉えましょう」


 主の声を受けて、アルジズがこちらを向くと発破をかけてきた。


「種を蒔いたとおっしゃっていたでしょう。今こそ芽吹かせる時ですよ」


 簡単に言ってくれる。


「わかって言ってるだろう!芽吹くには時間が必要だ。それに、芽吹いたところですぐに気づくのも難しい!普通、通信は暗号化されているんだ!!復号化には時間がいるし、通常は専門の者が複数名で行うところを俺だけでやっているのだからより時間がかかる」


 元々大きいと言われている声量を更に上げて反論した。

 黄の中の誰が裏切っているのかわからないため、調査一つをとっても組織立って動くことができない。普段は子細で慎重な部分を信頼できる部下に任せ、大局を動かすことに注力しているのだ。性に合わないことをしているのだから、どうしたって成果は振るわない。

 尾をぶんぶんと振り下ろして憤っていると、アルジズがすっと真横に立った。大きく腕を広げ、宥めるように肩を抱くと主に背を向ける形で耳打ちしてくる。


「白の宮殿へ何度訪問しても会わせてもらえなくて・・・このままだと自暴自棄になるかもしれませんよ」

「なにッ!!」


 俊敏に振り返り、主の様子を窺う。

 捕虜が白の宮殿に移送される直前に己の感情を自認したようだったから、その状況は辛かろう。


(新しい白の長と関係が良くないのか?)


 折角内密に面会しやすいようにと配慮したのだが、どうやら白の長が会わせないようだ。主と特段関係が深いとは思わなかったが拗れている認識もなかった。それに前任者の事件もあり、捕虜に対して過激な思想を抱いたりしていないか熟慮の末に選出された者のはず。

 白の宮殿預かりは一時的な措置で、いずれ神殿に戻される予定の捕虜に無体を働いたりはしないと思うが、捕虜は大丈夫だろうか。


「・・・一刻も早く片付けたいのです」


 憂愁の色を濃く漂わせた主に掛ける言葉を探していた時。


――― ジリリリ


 来訪者を告げる音が鳴る。簡易投影機には青と赤のマントが映っていた。

 この問題はここに居る三人にしか共有できない。頷き合って一旦口を噤んだ。


 パシュッという小気味よい音と共に会議室のドアが開き現れたのは、元々予定されていた通りの面々だった。

 五色揃った定例会議の場、その前に極秘に三人だけ集まり善後策について協議していたのだが、タイムリミットのようだ。


「っ・・・」


 赤のマントのベルカナと目が合った瞬間、局所的な突風が起こるほどの高速で尾が振られ目を逸らされる。何だというのだ。

 

「お前、変だぞ・・・む、なんだ、そちらもどうしたッ!?」


 先日、黄の宮殿へ訪ねて来た時も様子がおかしかったが、輪をかけて変だ。機嫌を損ねるような出来事もなかったし、会話の内容も特別なものではなかったはず。

 しかしベルカナのほうへ近づこうとして、より挙動不審な隣の存在に気づきそちらへ意識が逸れた。

 濃紺のマントを纏ったユルが呆然とした様子で突っ立っている。

 五色の中で最も年嵩であり、時に主に対してすら尊大な態度を隠さない彼が、心ここにあらずといった様子でふらふらと椅子へ向かって行った。いつもであれば周囲に嫌味の一つでも振りまいているのだが。


(どいつもこいつも、何か変ではないか?)


 情報を漏らしたのは黄の者。それは通信情報の解析から確定しているが、その内容の性質から言って青の関与も疑われる。


(まさかこいつも関わっているのではあるまいな・・・)


 研究熱心であるが故に情報を欲して仲間を売る―――考えたくはないが、マッドサイエンティストと言って差し支えない彼ならばあるいは。


「そ、、、そういえば、白はどうしたの?」


 妙な空気が漂う中、ベルカナが誰にとはなく問いかけると、アルジズが顔の前でパタパタと手を振って面倒そうに応じた。


「スリサズ様は超絶多忙を極めているため欠席、すべての議案について殿下に一任するとのことです」


 先日選出されたばかりの新入りの態度ではない。


 ふぅと重い溜息をついた主が中央に座り、硬い声で告げた。


「それでは始めましょう」


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