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龍の棲む星  作者: 青丹柳
青星
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 夕食後に部屋を訪ねてくるのはリュウに決まっている。いつも自然に入ってくるのだが今日はどうしたのだろう。

 確かに呼び鈴が鳴ったのに、いつまで経っても誰も入ってこないので不思議に思ってドアへ近寄った。


 わたしの体に反応して響く、モーターの無機質な音の先には―――


「あれっ?」


 思わず声を上げてしまったのも仕方がない。

 時間を問わずわたしの部屋にはリュウ以外の人が来ることは滅多になかった。極々偶に、お水を持って来てくれたり、身の回りを整えるために入って来る人がいるくらいだ。

 だから珍しいお客さんに思わず顔が綻んだ。


「オセラ!」


 日中は地球を出る時に無理矢理持たされたフレア型のワンピース姿でいる。でも夜はこちらの星で用意してもらった、まるで古代人のような簡素で飾り気のないワンピースで過ごしていた。彼らがマントの下に着ているものと同じデザインだが、体格が違うので引き摺るほどぶかぶかだし、横幅も余り過ぎているのでワンピースの中で体が泳ぐくらいだった。ただ寝るだけなら体を締め付けず心地がいいけれど。

 日中の姿しか見たことがなかったオセラは、見慣れない姿に少し目を見張っている。明らかにぶかぶかのワンピースを凝視していたので少し気恥ずかしくなった。


「これ、ちょっと大きくって・・・」


 視界に映る面積をできるだけ減らそう身を捩った時、オセラの肩越しに動く影に気付いてハッと身構えた。

 警戒が伝わったのだろう、オセラが慌てて口を開く。


「大丈夫、カレには会ったことあるハズでス。神殿、ハジメテ来たとキニ」


 その言葉を受け、すっと灯りの届く範囲に出て来たのは薄黄のマントを纏ったオセラと瓜二つの生き物だった。

 瓜二つとは言ってもわたしが彼らの顔面の差異がわからないだけで、体格とマントの色が同じだと見分けがつかないということだが。


(声を聞けばわかりそうなんだけどな)


 ペコっと頭を下げると、彼も同じようにしてくれた。

 同じ行動で返すのはオセラもそうだ。


「カレの名前は、ニイド、でス」

「こんばんは」


 返事はない。神殿へ護送された時も、オセラもニイドも喋らなかった。

 オセラはわたしと人間の言葉を勉強しているから会話できるようになったけど、ニイドはまだ人間の言葉を解らないのだろう。

 そういえば黄の宮殿での騒動の時に、わたしの事を心配そうに気遣ってくれたのもこの二人だったっけ。


「さっき離れる、ウウン、別れる?トキに、何か言いたソウ、見えマシタから」


 再度執務室へ呼び出されたウルズを待っている間に寄ったのだという言葉にとりあえず頷いた。

 確かに、ウルズとベルカナの事を相談したかった。手紙を禁止されてしまい、次に会う時に話すしかないと諦めていたから渡りに船だ。


「入って入って。中で話そう」


 リュウ以外のお客さんにわくわくしながら手招きする。

 中で座って話したほうがいいだろうと思ったからだが、二人とも困ったように入り口で顔を見合わせたあと固まっているので不安になった。

 普通は友人を部屋に招いたりしないのだろうか。

 ニイドは部屋の中に興味があるようで入り口からきょろきょろと見回しているが、オセラはのけ反って躊躇しているようだった。しっぽがくるんと丸まっている。


「夜、部屋にハイルのは、ソノ、失礼デスよね?ここでオハナシ、聞く、マス」


 そんなことない。

 今よりずっと小さい頃、まだ父が健在だった時分には学校の友達を家に招くことだってあった。各々の親の了承の下にお泊り会だって開いたことがある。昼間は学校で顔を合わせるけど、普段は夜に会う機会などないからベッドに上がってパジャマ姿でお喋りするだけでも不思議な高揚感があった。

 それから長いこと友達はおろかまともな人間関係など望めなかったから、本当に久しぶりの高揚感を覚えている。またあの楽しい気持ちを友達を分け合うことができたらどんなにいいか。

 夜だから駄目なんて聞いたことがない、大丈夫だとオセラの腕を引っ張ると渋々と入って来てくれた。その後ろをニイドも付いて来る。


 ニイドのほうはあまり抵抗感はないようで、あちこちを指さして何なのかオセラを通して質問責めだった。

 あれこれ触って物珍しそうなニイドをオセラが引っ張って制している。

 今はわたしが使っていても、この部屋の物は元々リュウ達が用意してくれたのだから全然気にしないのに。

 椅子を引いて座るよう促すと、二人ともおっかなびっくりといった様子でそろりと座った。


「・・・椅子、座りにくいね。ごめん」


 彼らは皆体格が良いから、わたしにちょうどいい椅子は彼らにとっては小さい。

 子供用の椅子に無理矢理座った大人のような窮屈な姿に、申し訳ないけどくすりと笑った。


「ニンゲン用デス、仕方ないです」


 他の物も全部人間用だから珍しくて面白い、というオセラの言葉にふと気になった。


(そういえば、どうやって人間用のものを集めたのかな)


 オセラ達が珍しがるということは、彼らの生活用品はこの部屋の物とかけ離れているのだろう。

 わたしが全く違和感を抱かなかったくらいにきちんとした人間用の物品が揃えられているが、地球政府がこれらを用意してくれたとは到底思えなかった。

 だとすると、どうやって準備したのだろう。


 思わず考え込んでいると、向かいに座ったオセラが首を傾けて顔を覗き込むのではっとして考えるのをやめた。

 考えても仕方がない事は思考の外へ追い出すのが得意だったのに、最近はうまくいかない。色々と気になることが有りすぎる。


「それで、ナニガありましタカ?」

「あ、それがね―――」


 ベルカナの許可なしに全てを話す事はできないから、昼間の事情をぼかして伝えた。

 ウルズの事を好きかもしれない人が居て、その人はまだ自身の気持ちがよくわからないと言っていたこと。

 一番大事なのは、わたしにできることがあるなら二人のために何かしたいということ。


「ウルズさんは好きな人いるのかな?オセラはいつも一緒にいるから、ちょっと聞いてみてくれない?」

「ウーン、わかりました。デモ・・・」


 オセラはしっぽを丸めてもじもじしている。


「ウルズ様とソノ方は面識ありマスカ?」

「ある、と思うけど」

「ウルズ様、猪突猛進?デスから。その方の事気に入っていれば既に結ばれてイルノデハないかと。そレニ・・・ウウゥン」


 そこまで言うとオセラは目をぎゅっと瞑り、しっぽは極限までくるくると丸められている。表情はないというのに、何となくどんな心境かわかる。人間だったら滝のような汗をかいていただろう。

 言わんとすることはわかった。


「でも好きな人いないんだったら、好きになってもらえるように努力してもいいでしょ?その手伝いができればいいの」


 人間みたいに分かりやすく表情に喜怒哀楽が浮かぶわけではないけど、しっぽや目を見ていると豊かな感情を持っていることはわかる。

 だったら人間と同じように、振り向いてもらえるように、好きになってもらえるように交流していけば可能性はあるはず。


「もしわたしにできる事があれば、何でもやってあげたいの」


 もし嫌でなければオセラにも手伝ってほしい。

 そう言うとオセラはわたしの顔を見て、困ったように首を傾けゆっくり瞬きをしてから、こくんと頷いた。


「ありがとう!次に神殿に来る時にしっかり作戦を立てよう!」


 気合を入れて拳を握るわたしの様子を、目を細めて見守ってくれるオセラが頼もしかった。



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