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龍の棲む星  作者: 青丹柳
青星
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「ねぇ・・・これ本当にあってる?」

「あ、疑ってるんだ!!ひどい!僕を信じてよ!!」


 そう言われたってわたしには正しい内容かわからないのだから不安にもなる。

 茶目っ気のあるエオーの事だ。わたしが書きたいと言った内容と逆の内容を綴った文字を指示している可能性は大いにあった。何より指示された文字を清書するわたしを見ながらくふくふと押し殺して笑っていたのが非常に気になっている。

 じとーっと湿った目で見ているとひっくり返って悲しんでいるが、どこまで信じていいのやら。


(折角できた知り合いだし、気を悪くさせたくない)


 中々起き上がらないエオーを横目に周囲を確認すると、いつも入浴を手伝ってくれる世話係のうちの一人を見つけて呼び止めた。


「ねえねえ」

「?」


 大柄すぎる体格に依らず、トコトコと優しく近づいてくる彼女に手紙を広げて見せる。


 前もって聞いていた通り、リュウやアルジズはここ暫く見掛けないのでとても忙しいのだろう。連絡手段もない事から彼らに了解を得るのは諦めて、手紙のやり取りを周知の事実にしてしまおうと考えていた。


(みんなに怪しい内容じゃないって確認をもらっておけば怒られない、よね?)


「手紙を出したいんですけど内容を確認してほしいんです。失礼がないかとか、あと―――怪しい内容じゃないことも」


 言葉を覚えたいという当初の目的と、神殿外部に手紙のやり取り相手がいることなど経緯を説明してから、最後にお願いについて言及する。

 わたしが言わんとすることが伝わったらしい。彼女の尾がしゅるんと下がって、でもしっかりと頷いてくれた。

 前回の騒動が思いの外大きくなってしまったので事件のあらましは広く伝わっているようだ。目には微かに同情のような色が浮かんでいる気がした。


 彼女は勢いよく紙を広げると、ちょうど向こうから歩いてきた、もう一人の世話係も呼び止める。いつも二人でわたしの入浴を手伝ってくれるから親しいのかもしれない。


「これ、ニンゲン、手紙書く。内容、見よう」

「内容、悪くない。でも、恋文、熱、足りない」


 恋文ではない。あくまで友達宛てだ。経緯の説明はしたはずなのに微妙に目的がずれて伝わっている。

 口を挟みたかったが、彼女たちの会話に割り込む隙間がないので気後れしていると更に通りがかった者たちを巻き込んで議論が始まった。

 ますます訂正の機会を逸してしまう。


「今日あったこと、書くだけ、駄目。心情、要る」

「ニンゲンって手紙の最後に"愛を込めて"って書くんでしょー?」

「だったら私達の文化も加味して文末に・・・」


 皆に内容を確認してもらって二度と同じ轍は踏まないようにする、という目的は達成できそうだが―――


(・・・なんだか大事になってない・・・?)







「―――・・・ゥヘブッ!!!!!」


 やっと国政が落ち着き始めたので久しぶりに黄の宮殿に戻って来た。

 自分に付き従って黒の宮殿に詰めていた部下たちもやはりプレッシャーを感じていたのだろう。黄の宮殿の門を潜った部下たちは心なしか嬉しそうで、暫く自由にしてよい許可を出すと一目散に宮殿内へ散っていく。


 斜め後ろを歩く護衛のオセラも、門のところで受け取った書類を手にそわそわしている。マントの影に隠して密かに開封しているのもしっかり見えていた。

 それは構わないのだが、さっと目を通すなり咽るものだから内容が気になる。

 恋人からの手紙だろうか。現代では廃れてしまった紙ベースの情報伝達文化も、若者達にとっては逆に新鮮に映ることもある。


(どれ、ちょっとからかってやろう)


 彼はまだ若くマントの色も薄い。濃い色のマントほど上の位に就く者だが、彼ならばすぐに濃色のマントに変わっていくだろう。肉体面でも精神面でも今後の伸びしろが最も大きい部下だと見込み、護衛として傍に置いていた。他人の能力を見極める目には自信があるのだ。

 そんな期待の部下をこれほど動揺させるとは、少し探りを入れてみようではないか。


「ゴホン―――どうした、オセラ」

「!?いえ、何でも・・・何でも・・・・・・ありません」


 どう見ても何かがあるだろう。


「この俺はお前の上司だぞ!困りごとなら良い助言が得られるとは思わないか?」


 後ろで手を組み堂々と立ち塞がると、期待の部下はどうすべきか逡巡しているようだった。

 ええいまどろっこしい。


 オセラの手からさっと紙を取り上げると、情けない声が上がる。

 将来有望ではあるのだが、今はまだヒヨッコだ。


「あっ!!ウルズ様、駄目です!!返してください!!」

「・・・・・・・なんだこれは」


 想像していたものから大きくはかけ離れてはいなかったが、内容に頭がくらくらした。したためられているのは今日の出来事と、それから熱烈な愛の言葉。拙い文字だが一生懸命にオセラを想って書いたのだろう。

 オセラは硬派で、どちらかといえばこういった恋愛事には奥手だと思っていたが間違いだったか。


 固まっていると、マントに縋ってオセラが喚いた。尾がすっかりしょげてだらりと垂れ下がっている。


「お願いです!絶対誰にも言わないでください・・・手紙を回し読みしたなど知られたら嫌われてしまうかも・・・」


 余程恋人の事を大事にしているらしい。いや、彼は何事にも生真面目だから生来の性質かもしれないが。

 だからこそこれほど情熱的な恋人がいるとは驚いた。


「もちろんだ!しかしお前にも良き伴侶がいたとはな!!今度連れて来てみろ、俺がお前の有望さをしっかり伝えてやろう!」

「いえ、何か誤解されています!!これは言語習得の一環なのですからやましい事は・・・その、ありません」


 所謂照れ隠しというものだろうと聞き流して、それから数歩歩いて足を止めた。


「・・・言語・・・習得だと?」


 最近彼が習得しようとしている言語は人間のもので、つい先日神殿の庭で勉強仲間を見つけて―――と言うことは。


「まさかとは思うが、その手紙の送り主は」


 だらりと下がっていたオセラの尾がぴんと糸を通したように張る。


「ええ、ご想像の通りです」


 爪の先端でこめかみ部分を引っ掻いて瞬時に思考を巡らせた。

 殿下の置かれた状況、白の長、それから捕虜の今後について。公私にわたって殿下の傍に居る自分にできることは何か。

 あの捕虜が書いた手紙にしては違和感を覚える内容からして、向こうが何を警戒しているか、どう対処したのか手に取るようにわかったからその考えは無下にしたくない。


「・・・ふむ、言語習得の話もあるし、捕虜もこういった息抜きは必要だろう。止めはしない」


 ただし―――


 条件とその理由を告げると、オセラは神妙に頷いた。





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