剣鬼は出会う
意識が朦朧とする中、彼は森を歩いていた。
どれだけ歩いただろうか。
負傷した身体から血が出て止まらない、このままだと出血死か感染症で遅かれ早かれ死ぬのは間違いない、そんな状況だと言うのに俺は冷静だ。
死ぬのは怖くない、俺は死ぬ為に剣を振り続けてきたんだ。求めていた場所だ。
彼は近くの茂みに入り、大木に背中を預け目を閉じ座り込む。
もうすぐ絶命すると言うのに、頭の中に何も浮かんでこない。当たり前だ、剣を握り始めてから死に場所を求め剣を振り続ける事以外何も考えてこなかった。
彼はもう一度目を開け大きく息を吸い込み再び目を閉じた。
死を迎え入れる準備ができたその時、茂みの中からこちらに近づいて来る足音があった。
向かってくる奴が例え山賊だろうが魔物だろうがもう朽ちる命だ、気にしたって仕方がない。
彼は目を開けないつもり”だった”。
「大変!怪我してるじゃない!!」
そう叫び近づいてきたのは女だった。
「傷が深いわ!出血も!確か治癒ポーションを持ってきてたはず!」
彼女は俺の姿を見るや近づいてきて安否を確認してくる。
「ねえ!私の声が聞こえるかしら?」
俺は返事をしない。
「心臓も弱いけど動いているし呼吸も出来ている、すぐに怪我も治して楽にしてあげるからね!」
彼女は安否を確認し終えるとポーチから治癒ポーションを取り出し俺の傷口にポーションを浴びせ始めたその時。
「なにしやがる。」
俺は彼女のポーションを払いのけ、目を開け女の方を睨む。
そこには透き通る様な真っ白な肌と、長い髪の毛を赤色のリボンでポニーテールに纏め、飲み込まれる様な深渕の様な緑の瞳でこちらを驚いた様に覗いて来る彼女と目が合った。
「よ、良かった!意識があったのね!」
と彼女は動揺と安堵の表情を漏らす。
「なにしやがるって俺は聞いたんだ。」
俺は彼女を睨み続ける。
「満身創痍で今にも死にそうにしてる貴方を助けようと・・・」
「俺は死のうとしてたんだ!、なのに余計な事をしやがって!」
俺は彼女が言葉を言い切る前に話を遮って叫んだ。
「お前がどう思って俺を助けようとしたかは知らないが、息をしてる連中全員が生きたいと思って生きてる訳じゃねえんだよ!」
森に俺の乾いた叫びが響くと同時にパチンと頬叩いた音が響いた。
俺は何が起きたか理解に遅れた。
「死ぬとか言わないで!命は一つしかないんだよ・・・死んだらもう会えないのよ?」
彼女は怒りとも捉えられる悲しい表情と共に涙を流しながら俺の頬を叩いたのだ。
「貴方が死んだら悲しむ人や!貴方の帰りを待っている人たちがいるでしょ!?」
彼女は俺の目をみながら尋ねる。
俺は彼女の表情と涙を見ると声が詰まった。
何故この女は怒り、涙を流しているのだろうか?俺は自分以外の全ての者を斬り捨てて来た人間だ、所詮赤の他人だとそう思って生きてきたんだ。
なのに他人の気持ちを汲み取ろうとしてる自分と、遠い過去の記憶が重なる。
「悲しむ人?帰りを待ってる人?そんなもんとっくにいねえんだよ。」
彼女から目線を反らし、今にも消えそうな声で答える。
俺は小さい時に”全てを失った”、妹や両親、そして友を。
理由は俺の育った町からすぐ近くで魔物によるスタンピードが発生したのだ。
スタンピードによる魔物たちの進行によって町は襲われ村は魔物達に蹂躙された。
小さかった俺と妹は父と母に言われるがままベッドの下に押し込まれそこに衣類や布団を入れ身を隠す様に言われた。
父と母に二人はどこに隠れるの?と聞くと両親は笑顔で騎士団に応援を呼んでくると笑っていた。
その時両親の言っている意図に気付かなかった俺は安堵していた。
騎士団が来てくれる、そうしたら町は助かる、そう思い込んでいた。
俺は家の外に響く喧噪や町の人たちの聞こえてくる悲鳴に妹を抱きしめ怯えながらじっとしていた。
どれだけ時間が経ったのかわからない、気が付くと外は静かでさっきの喧噪や悲鳴が嘘の様にだった。
俺は意を決して外に出る事を妹に伝えた、妹はひどく怯えており手を放そうとしなかったが俺は外の様子を見てすぐ戻ってくると妹の頭を撫で外にでた。
布団と衣類をどけ、外に出ようと玄関を開けようとしたが開かなかった。
俺は不思議に思い子供しか出入りできないであろう裏窓から身体を外に出し家の表へ歩いて行った。
そして、俺は玄関が開かなかった理由を気付き崩れ落ちた。
玄関には騎士団を呼びに行くと言い外へ出て行った両親が身体を重ね合いながら玄関の扉を守る様に倒れていた。
俺は、震える手足を必死に動かして歩き両親の元へ寄る。
父と母は死んでいた。
両親の身体には俺たちを守ろうと必死に魔物に抵抗したのだろう、二人とも身体の損傷が激しかった。
涙が溢れて止まらなかった、でも、声は押し殺した。
まだ近くに魔物がいるかもしれない、何より家の中に怯えて待っている妹を不安にさせてしまうからだ。
俺は泣くだけ泣いた。そして今でも倒れそうな身体で立ち上がり町の方へ向け歩き出した。
町はひどい有り様だったひどく損傷した建物に溢れかえる住人の死体の数々。
思わず嘔吐した、それでも歩き町を見て回った。
一軒一軒家をみて回るが生き残りはおらず食べ物や家具が荒らされていた。
絶望だった、小さい俺にはその現実が受け止めれなかった。
町を歩くと崩れて瓦礫の山となった教会を見つけた。
元々そんなに大きくない建物だった、教会の前に来ると瓦礫の間から声が聞こえてきた。
「おい、外にだれかいるのか?」
俺は生きてる人間の声に驚いたと同時にその声の主にまた涙が溢れた。
町で同い年で親友のリンドウだ。
「リンドウか!?リンドウなのか?俺だ!レンジだ!!」
俺は瓦礫に埋もれてるリンドウに話しかけた。
「レンジか!?お前生きてたのか嬉しいぜ!バカヤロー!」
リンドウは笑っていた、この状況なのにこいつは変わらない。
「俺もお前が生きていて嬉しいぞ!」
俺は途絶えた希望に僅かな光を感じた。
「なあ、レンジ外はどうなっている?魔物は?町は無事か?」
リンドウは外の状況説明を求めてきた。
俺は町の状態と両親が亡くなった事と妹が家で待っている事食料が町に残ってない事伝えた。
「そうか、町はめちゃくちゃなんだな、お前ん所の両親もお前たち兄妹守れて誇り思ってるはずだぜ。」
リンドウはこんな状況でも俺を慰めてくれた、再び涙が滲んだが我慢してリンドウに問う。
「リンドウの家はどうだった?おばさんとおじさんは?」
リンドウは少しのタメを作ると元気な声でこう返してきた。
「父さんと母さんはわからない、一緒に逃げてたんだけど途中ではぐれて怖くなって俺一人だけ教会に来たんだ、そしたらこの通り俺以外誰もいないし、直ぐに入口が瓦礫で埋もれちまってよ!まああの二人の事だうまいことやってるって!鬼おやじと鬼ばばあだし!」
俺は元気なリンドウの声を聞いて少し安堵した。
「リンドウの両親無事だといいな。リンドウ、怪我はないか?」
「怪我なんてねーよ!強いて言うならびびって漏らしたくらいだ!」
「怪我が無くてよかったよ。」
「ああ。なあ、レンジ瓦礫どかせそうか?」
俺は瓦礫の状態を再確認する。
とてもじゃないが俺一人でどうにかできそうにない。
「悪い、リンドウ俺一人だとムリそうだ。」
俺は伝えた。
「だよな、こっちもビクともしないんだ。」
リンドウは声を落としたが再び明るい声で尋ねて来た。
「レンジどこかに少しでもいいから瓦礫との間に空洞ねえか?」
俺はリンドウに言われるがままに空洞を探した。
小さな瓦礫を少しどけると僅かだがら空洞を見つけそこから声をかける
「リンドウ!ここなら少しだけ空洞があるが、とてもじゃないがお前や俺じゃ通れないぞ」
「まあ、待ってろ!」
リンドウの声が近づくと同時に瓦礫の中から物音がした。
少しの間待っていると瓦礫の隙間から木の棒がでてきた。
「なあ、リンドウこんな棒で何をするんだよ?」
俺はリンドウの意図が掴めずにいた。
「木の棒は無事に通ったみたいだな!よし!まっとけよ!」
また俺はリンドウに言われるがまま待っていた。
「レンジ!待たせて悪いなおそすわけだ!」
棒の先には布に小さく包まれた果物が入っていた
「リンドウ!食べ物が!!」
俺は食べ物が目の前にあるのと同時にリンドウのその次の発言に驚いた。
「レンジ!そんなもんじゃねえぞ!」
と言い何度も何度も棒を往復させ食べ物を運んできた。
「リンドウ!お前こんなに食べ物もっていたのか!」
ざっと見ると大の大人が”数人”で食べても三日は過ごせるぐらいの量に驚いた
子供の俺たちなら6日間は食い繋げれる。でも、リンドウはどうなんだ?こんなに渡して自分の分はあるのか?
「なあ、リンドウお前の分はあるのか?」
と俺は疑問をたずねた。
「当り前よ!流石に自分の分を残さないほどお人よしじゃないぜ!リンドウ様はよ!!」
リンドウは明るく答えてみせた。
「だよな!お前の心配した俺がバカだったよ!」
俺たちは互いに笑いあった。リンドウが生きてて本当によかった。何度も思った。
「レンジ!家で妹のセリアが待っているんだろ?早く家に帰って安心させてやれ!魔物もいつ戻ってくるかわからねえし!俺は助けが来るまでここから出られない!ここに来たらいつでも会えるだろ!だから一度帰れ!」
俺とセリアを気にかけて家に帰るように伝えてきた。
「あ、ああ!わかったよリンドウ!また、明日もくるからな!!」
「おう!また明日な!」
俺はリンドウの声を聞くと家に向かった。
家の前に着くと両親の姿が目に入り、また涙が出そうになったが堪えて歩き裏窓から家に入った。
「ただいま!セリア!俺だ、レンジだ。」
ベッドの下のセリアに声をかけた。
「レンにいちゃん?」
「ああ、俺だ!出ておいで。」
俺の返事と共にセリアがでてきた。
「レンにちゃんのばかぁ!おそくて、おそくてえ!」
セリアは俺の顔を見るや、泣き始めた。
セリアはずっと泣いてたんだろう、肌白く透明な顔や綺麗な緑の瞳の周り赤く腫れていた。
俺はセリアを抱き寄せると、艶のある白い髪の毛をそっと撫でて整いてあげた。
「待たせて、ごめんな。でも、にいちゃんは無事だから」
「もう、一人にしないでね。」
「ああ、約束だ。」
俺はセリアを強く抱きしめた。
「ねえ、レンにいちゃん、ママやパパは居た?町の皆は?」
セリアはまだ涙が止まってない瞳をこちらに向けてくる
俺は悩んだ、両親の事と町の事、そしてリンドウの事。
そうして俺は両親の事以外全てセリアに伝えた。
そして、セリアは再び泣き始めた、俺はひたすら泣き止むまでセリアを撫でた。
セリアも泣き疲れたのだろうか俺に抱きしめられた形で眠りに落ちた。
また、起きたら泣き始めるだろうと俺は思った。
外を見ると陽は沈み始め一日が終えようとしていたが騎士団の助けは来る気配はまだない。
俺も少し疲れてセリアをベッドで寝かせ俺も横になった。
「必ず、助けが来る。必ず。」
俺はそうつぶやき眠りについた。




